第137話 オグマリー市攻城戦 5
文字数 2,028文字
その日も東西の戦況は大きく動くことはなく、南に陣取る僕らの持ち場も三度目の戦闘は行われなかった。
「じゃあ、そっちは味方にまだ戦死者は出ていないんだな?」
「はい」
「だが、死んでいないというだけで、みんな無事というわけでもないぞ」
「どういう意味だ? ラバナル」
「完治に至らなかったものが五人いる」
「それは……」
この世界、魔法は万能じゃない。
ラバナルがことあるごとに言っている通り、魔法は理 を操る技術だから、理屈が通らなければ発動しない。
治癒の魔法は人体構造の理解によってなされるわけだから、理解の範 疇 を超えると直せないってわけだ。
「その分、ワシが敵を十二、三人葬ってやったがの」
「それはそれは……」
「報告としては以上です」
僕が言葉に窮 していたのを察してか、イラードが締めにきた。
「判った。明日以降は強く攻めに出なくてもいいぞ」
「かしこまりました」
「なに? つまらんのぅ」
「……ラバナルが好き勝手にやるのは止めないぞ」
「本当か!」
声に喜色が込められてますけど。
「イラードたちに迷惑をかけない範囲でな」
「それは大丈夫じゃよ」
本当かよ。
「では、失礼いたします」
通信が切れる。
「チャールズ、まだやれるか?」
「はい、休憩を取らずとも大丈夫です」
確認をとって、西の軍へと連絡を取る。
こちらでは二人の戦死者と五人の重傷者が出ていた。
「敵兵の重傷者は判りかねますが、死者は七、八人かと」
城攻めで城側の方が戦死者が多いのは味方の軍が強くて優秀なのか、はたまた敵兵が弱いのか?
「判った。奇襲には十分注意して明日以降もいい感じに敵を引きつけてくれ」
「はっ」
そんなやりとりがその後五日続く。
その間、ここ南陣地は別の意味で過酷な戦いが行われていた。
夜陰に乗じた援軍要請の使者を狩り出すという非常に困難な戦いだ。
幸いなのはこのオグマリー区の出入口は山によって狭められていて脱出ルートが限られていることだった。
それでも深夜の視界が効かない山林の中、いつくるか判らない数人の使者を監視し続けるのは容易なことではなかったろう。
チャールズが張ったセンサー的な敵発見魔法と鳴子や落とし穴などの罠を多用して、大人数の不寝番による警備網を敷く。
昼の軍による突撃を警戒するならこんなに人員を割くのはどうかと思うレベルだったんだけど、ありがたいことに昼の襲撃はあれ以来なく、決死の使者を八人捕まえた。
「漏れなく捕まえられていると思うか?」
六日目の早朝、日の出と共に捕縛者の報告にきたカイジョーに訊ねると
「どうでしょうな? こればっかりは天に祈るしかない」
……だよね。
開戦から八日、想定では兵糧が尽き始める頃合いだ。
オグマリー代官オルバックがどれほどの為政者か?
そろそろ評判とか能力が見えてくるんじゃないかと見ているんだけど、どうかな?
特に戦闘が起こるわけでもない南の持ち場でそんなことを考えていると、あっという間に一日が過ぎ、日暮れて早々に一通の飛行手紙が飛んできた。
予定にないぞ。
緊急事態か!?
「今、飛行手紙がきませんでしたか?」
と、僕の陣幕に入ってきたのはルビンスだ。
目ざといね。
「オギンからだ」
手紙の内容は至って簡潔だった。
『我、オグマリー市潜入に成功せり』
無茶をする。
「ということは中の様子も判るということでしょうか?」
「だといいが……」
心配で悶々とした夜を過ごし、一睡もできずに夜が明けてしまったじゃあありませんか。
まったくもう……。
開戦九日目。
この日の報告では東西とも敵の防戦圧力がわずかながら弱まった気がすると言ってきた。
中でなにかが動いているのか?
開戦十日目。
昼過ぎに南門から一軍が突撃してきた。
「騎兵十五、剣兵約百」
魔道具望遠鏡で敵影を確認したチャールズが報告してくる。
ちょっときついな。
「騎兵にダイモンドってやつはいるか?」
いたらきついのはちょっとじゃなくなるぞ。
「ワタシは直接戦闘に立ち会っていませんから、どれが誰なのかは判りません」
「チッ、使えねえな」
「そう言ってやるなよ」
「直接確認しますか?」
「できるのか?」
できるのか?
チャールズは望遠鏡の筒を握ったままサビーの前に突き出す。
魔力を供給し続けないといけない燃費の悪い魔道具だから、チャールズが持っていないと使えないんだ。
「いる! 殿つとめてた奴らはいないが、あいつは先頭を走ってるぜ」
舌舐めずりでもしそうな表情を見せてホルスに騎乗するサビー。
このままだと一騎討ちでもしかねない。
「サビー、ルビンスと二人で当たれ」
「な!? ……御意」
あとは……
「ガーブラ、ルビレルは歩兵の合力。セイとホークは確実に勝てる相手がいるならそいつを選べ、あとの者は死ぬな、負けるな! 勝たなくていいぞ!」
「勝ちますよ!」
アーシカがやけに自信満々に返してきた。
前回の一戦で一騎討ち取っている自信からの軽口だろう。
フラグにならなきゃいいけど。
「全軍、突撃!」
「じゃあ、そっちは味方にまだ戦死者は出ていないんだな?」
「はい」
「だが、死んでいないというだけで、みんな無事というわけでもないぞ」
「どういう意味だ? ラバナル」
「完治に至らなかったものが五人いる」
「それは……」
この世界、魔法は万能じゃない。
ラバナルがことあるごとに言っている通り、魔法は
治癒の魔法は人体構造の理解によってなされるわけだから、理解の
「その分、ワシが敵を十二、三人葬ってやったがの」
「それはそれは……」
「報告としては以上です」
僕が言葉に
「判った。明日以降は強く攻めに出なくてもいいぞ」
「かしこまりました」
「なに? つまらんのぅ」
「……ラバナルが好き勝手にやるのは止めないぞ」
「本当か!」
声に喜色が込められてますけど。
「イラードたちに迷惑をかけない範囲でな」
「それは大丈夫じゃよ」
本当かよ。
「では、失礼いたします」
通信が切れる。
「チャールズ、まだやれるか?」
「はい、休憩を取らずとも大丈夫です」
確認をとって、西の軍へと連絡を取る。
こちらでは二人の戦死者と五人の重傷者が出ていた。
「敵兵の重傷者は判りかねますが、死者は七、八人かと」
城攻めで城側の方が戦死者が多いのは味方の軍が強くて優秀なのか、はたまた敵兵が弱いのか?
「判った。奇襲には十分注意して明日以降もいい感じに敵を引きつけてくれ」
「はっ」
そんなやりとりがその後五日続く。
その間、ここ南陣地は別の意味で過酷な戦いが行われていた。
夜陰に乗じた援軍要請の使者を狩り出すという非常に困難な戦いだ。
幸いなのはこのオグマリー区の出入口は山によって狭められていて脱出ルートが限られていることだった。
それでも深夜の視界が効かない山林の中、いつくるか判らない数人の使者を監視し続けるのは容易なことではなかったろう。
チャールズが張ったセンサー的な敵発見魔法と鳴子や落とし穴などの罠を多用して、大人数の不寝番による警備網を敷く。
昼の軍による突撃を警戒するならこんなに人員を割くのはどうかと思うレベルだったんだけど、ありがたいことに昼の襲撃はあれ以来なく、決死の使者を八人捕まえた。
「漏れなく捕まえられていると思うか?」
六日目の早朝、日の出と共に捕縛者の報告にきたカイジョーに訊ねると
「どうでしょうな? こればっかりは天に祈るしかない」
……だよね。
開戦から八日、想定では兵糧が尽き始める頃合いだ。
オグマリー代官オルバックがどれほどの為政者か?
そろそろ評判とか能力が見えてくるんじゃないかと見ているんだけど、どうかな?
特に戦闘が起こるわけでもない南の持ち場でそんなことを考えていると、あっという間に一日が過ぎ、日暮れて早々に一通の飛行手紙が飛んできた。
予定にないぞ。
緊急事態か!?
「今、飛行手紙がきませんでしたか?」
と、僕の陣幕に入ってきたのはルビンスだ。
目ざといね。
「オギンからだ」
手紙の内容は至って簡潔だった。
『我、オグマリー市潜入に成功せり』
無茶をする。
「ということは中の様子も判るということでしょうか?」
「だといいが……」
心配で悶々とした夜を過ごし、一睡もできずに夜が明けてしまったじゃあありませんか。
まったくもう……。
開戦九日目。
この日の報告では東西とも敵の防戦圧力がわずかながら弱まった気がすると言ってきた。
中でなにかが動いているのか?
開戦十日目。
昼過ぎに南門から一軍が突撃してきた。
「騎兵十五、剣兵約百」
魔道具望遠鏡で敵影を確認したチャールズが報告してくる。
ちょっときついな。
「騎兵にダイモンドってやつはいるか?」
いたらきついのはちょっとじゃなくなるぞ。
「ワタシは直接戦闘に立ち会っていませんから、どれが誰なのかは判りません」
「チッ、使えねえな」
「そう言ってやるなよ」
「直接確認しますか?」
「できるのか?」
できるのか?
チャールズは望遠鏡の筒を握ったままサビーの前に突き出す。
魔力を供給し続けないといけない燃費の悪い魔道具だから、チャールズが持っていないと使えないんだ。
「いる! 殿つとめてた奴らはいないが、あいつは先頭を走ってるぜ」
舌舐めずりでもしそうな表情を見せてホルスに騎乗するサビー。
このままだと一騎討ちでもしかねない。
「サビー、ルビンスと二人で当たれ」
「な!? ……御意」
あとは……
「ガーブラ、ルビレルは歩兵の合力。セイとホークは確実に勝てる相手がいるならそいつを選べ、あとの者は死ぬな、負けるな! 勝たなくていいぞ!」
「勝ちますよ!」
アーシカがやけに自信満々に返してきた。
前回の一戦で一騎討ち取っている自信からの軽口だろう。
フラグにならなきゃいいけど。
「全軍、突撃!」