第13話 長と七人の村人
文字数 2,022文字
宴もたけなわのうちにお開きとなり、僕は一度自分の小屋に戻る。
翌朝、日課にしていた午前中のルーティンワークをお休みにして、昨日持って行かなかったいくつかの商材を抱えてキャラバンの元へ行く。
「来たな」
「これも」とハムや干物を押し売りしつつ、ざっと店開きしてもらった商品を眺める。
さて、どれくらい必要なものが揃えられるかな?
商隊長さんが提示してくれた今回の買取金額と昨日査定してもらった金額では買えるものなど高が知れている。
まずは金属器。
加工に技術が必要なのこぎりは、村の再建に必要不可欠だ。
あんなボロ小屋程度を廃材リサイクルで作ったにも関わらず完成までに一ヶ月かけた事を考えればこれだけは買わなきゃならない。
「種も頼むぞ」
ルダーが後ろから声をかけてきた。
「せっかくの畑を荒れ果てさせるのはもったいない」
そういえば「前世も百姓だった」って言ってたな。
「大変だが、鋤鍬は最悪木製でいい」
「じゃあ、コ レ で適当に見繕ってください」
と、指を立てて金額を教える。
「む。なかなか厳しい額だな」
そんなこと言われても、先立つ物と欲しいもののバランスが……。
「そういえば、みんなの持ち物ってどんなものがあるんですか?」
それを確認できれば無駄に買わずに済むものがあるかもしれない。
「じゃあこっちも店 開 き しましょうか」
とヘレンさんが音頭をとって持ち物を店先に並べていく。
うむ、みんな万能ナイフは持ってるんだ。
いやいや、ジャスお前ちゃんと手入れしとけよ、サビだらけじゃないか。
ルダーのナイフはデケーな、ちょっとしたダガーじゃないか。
みんな旅行セット程度は持ってるんだな。
僕より全然マシだ……。
…………。
なんかいたたまれなくなってきた。
「俺は百姓だからな、大概のことはなんでもできるぞ」
と、ルダーが言えば「どういう意味か?」とジャリが聞く。
「ん? んーん……説明が難しいな」
多分、今のセリフは僕だけに向かっていった言葉だ。
前世はともに日本人だったことが判ってる。
古来大和朝廷は血縁による所属名である「氏 」と別に職業を表す称号「姓 」を有力者に与えた。
まぁ職業ったって書記とか会計とか要するに地位のことなんだけど。
で、お百姓さんは「百の姓」つまり「いろんな仕事をする人」なんだぜって、よく(前世の)知り合いの農家さんも言ってた。
多分ルダーもそういうニュアンスで言ってる。
ま、道具さえあればなんでも作ってやるってことなんだろう。
てな訳で、僕は揃えるものを大いに厳選する。
最初に選んだノコギリと狩猟用の弓を二張、替えの弦、罠を仕掛けるための縄など糧を得るための道具。
そして、ルダーが選んだ種。
まぁ、他にも欲しいものは色々あったんだけど、ここで資金が底をついた。
うん、武器は高いね。
狩猟用だけどね。
売買が成立すると、キャラバンはそそくさと店仕舞いを始める。
例年だともう二、三日留まるんだけど、こんな村じゃこれ以上は商売になんないし、仕方ないね。
「じゃあな、少年。一応来年も来るからな」
一応か。
来るって言ってくれただけマシかもね。
ここは襲われた村だし(もう半年も前だけど)ここに居続けるより移動した方がいいという判断なんだろう。
去り行くキャラバンを手を振って見送る八人の村人。
「さて」
と言ったのはジャリだ。
「村長 を決めよう」
たった八人なのに?
「ジャンでいいだろ」
と言ったのはルダー。
なんで?
年かさから言って代表やるならルダーだろ。
「ここはジャンの村だったんだからジャンが長で問題なかろう?」
む・理屈ではある。
「そだねー」
相変わらず軽いなカルホ。
「私もそれでいいと思います」
と、ヘレンが賛同したらジャリもあっさり了解した。
「じゃあ……そういうことで。よろしく」
なぜかクレタがしめる。
……まぁ、いいか。
「じゃあ、とりあえず注意事項から」
「え?」
え?
何か問題でも?
「普通はこれからどうするとかいう話じゃないのか?」
「いい質問ですね、ジャス。実はこの村の雑木林の奥の森には『主』と呼ばれる存在がいまして、入っちゃいけないテリトリーってのがあるんですよ」
「入ったらどうなるんだよ?」
「十中八九帰ってこられません。もし命からがら戻ってこられたとして、五体満足で戻ってきたものはいないと……」
「わ、判った。注意事項からでいい」
僕は、改めてざっくりと周辺地図を地面に書きながら危険な場所などを説明していく。
「━━とまぁ、最初のうちはみんなで行動しながら覚えていきましょう。次に……ああ、続きは食事の支度とテントの準備をしてからということで」
キャラバンのご好意でふた張りのテントを貰い下げている。
それを男たちが建てている間に、クレタとカルホを連れて小屋まで食材を取りに行く。
八人で食べるとしたら何日分の備蓄ってことになるかな?
一人で秋まで持つ計算だったけど、さて……やりくりを考えなきゃな。
翌朝、日課にしていた午前中のルーティンワークをお休みにして、昨日持って行かなかったいくつかの商材を抱えてキャラバンの元へ行く。
「来たな」
「これも」とハムや干物を押し売りしつつ、ざっと店開きしてもらった商品を眺める。
さて、どれくらい必要なものが揃えられるかな?
商隊長さんが提示してくれた今回の買取金額と昨日査定してもらった金額では買えるものなど高が知れている。
まずは金属器。
加工に技術が必要なのこぎりは、村の再建に必要不可欠だ。
あんなボロ小屋程度を廃材リサイクルで作ったにも関わらず完成までに一ヶ月かけた事を考えればこれだけは買わなきゃならない。
「種も頼むぞ」
ルダーが後ろから声をかけてきた。
「せっかくの畑を荒れ果てさせるのはもったいない」
そういえば「前世も百姓だった」って言ってたな。
「大変だが、鋤鍬は最悪木製でいい」
「じゃあ、
と、指を立てて金額を教える。
「む。なかなか厳しい額だな」
そんなこと言われても、先立つ物と欲しいもののバランスが……。
「そういえば、みんなの持ち物ってどんなものがあるんですか?」
それを確認できれば無駄に買わずに済むものがあるかもしれない。
「じゃあこっちも
とヘレンさんが音頭をとって持ち物を店先に並べていく。
うむ、みんな万能ナイフは持ってるんだ。
いやいや、ジャスお前ちゃんと手入れしとけよ、サビだらけじゃないか。
ルダーのナイフはデケーな、ちょっとしたダガーじゃないか。
みんな旅行セット程度は持ってるんだな。
僕より全然マシだ……。
…………。
なんかいたたまれなくなってきた。
「俺は百姓だからな、大概のことはなんでもできるぞ」
と、ルダーが言えば「どういう意味か?」とジャリが聞く。
「ん? んーん……説明が難しいな」
多分、今のセリフは僕だけに向かっていった言葉だ。
前世はともに日本人だったことが判ってる。
古来大和朝廷は血縁による所属名である「
まぁ職業ったって書記とか会計とか要するに地位のことなんだけど。
で、お百姓さんは「百の姓」つまり「いろんな仕事をする人」なんだぜって、よく(前世の)知り合いの農家さんも言ってた。
多分ルダーもそういうニュアンスで言ってる。
ま、道具さえあればなんでも作ってやるってことなんだろう。
てな訳で、僕は揃えるものを大いに厳選する。
最初に選んだノコギリと狩猟用の弓を二張、替えの弦、罠を仕掛けるための縄など糧を得るための道具。
そして、ルダーが選んだ種。
まぁ、他にも欲しいものは色々あったんだけど、ここで資金が底をついた。
うん、武器は高いね。
狩猟用だけどね。
売買が成立すると、キャラバンはそそくさと店仕舞いを始める。
例年だともう二、三日留まるんだけど、こんな村じゃこれ以上は商売になんないし、仕方ないね。
「じゃあな、少年。一応来年も来るからな」
一応か。
来るって言ってくれただけマシかもね。
ここは襲われた村だし(もう半年も前だけど)ここに居続けるより移動した方がいいという判断なんだろう。
去り行くキャラバンを手を振って見送る八人の村人。
「さて」
と言ったのはジャリだ。
「
たった八人なのに?
「ジャンでいいだろ」
と言ったのはルダー。
なんで?
年かさから言って代表やるならルダーだろ。
「ここはジャンの村だったんだからジャンが長で問題なかろう?」
む・理屈ではある。
「そだねー」
相変わらず軽いなカルホ。
「私もそれでいいと思います」
と、ヘレンが賛同したらジャリもあっさり了解した。
「じゃあ……そういうことで。よろしく」
なぜかクレタがしめる。
……まぁ、いいか。
「じゃあ、とりあえず注意事項から」
「え?」
え?
何か問題でも?
「普通はこれからどうするとかいう話じゃないのか?」
「いい質問ですね、ジャス。実はこの村の雑木林の奥の森には『主』と呼ばれる存在がいまして、入っちゃいけないテリトリーってのがあるんですよ」
「入ったらどうなるんだよ?」
「十中八九帰ってこられません。もし命からがら戻ってこられたとして、五体満足で戻ってきたものはいないと……」
「わ、判った。注意事項からでいい」
僕は、改めてざっくりと周辺地図を地面に書きながら危険な場所などを説明していく。
「━━とまぁ、最初のうちはみんなで行動しながら覚えていきましょう。次に……ああ、続きは食事の支度とテントの準備をしてからということで」
キャラバンのご好意でふた張りのテントを貰い下げている。
それを男たちが建てている間に、クレタとカルホを連れて小屋まで食材を取りに行く。
八人で食べるとしたら何日分の備蓄ってことになるかな?
一人で秋まで持つ計算だったけど、さて……やりくりを考えなきゃな。