第40話 それは前世で散々やってきたことだから
文字数 2,485文字
現れたのは若い男たち四人。
僕ら農村の男たちとはまた違った肉付きの男たちだ。
どちらかといえばガーブラタイプだな。
「ようこそ」
まずは当たり障りのない挨拶から。
「この村の村長です」
うん、戸惑うよね。
判るよ、僕、若いからね。
まあそこはほら、旅慣れた人たちだからだろう、素早く気を取り直して自己紹介をしてくれた。
もっとも名乗ったのは通り名ってやつだけどね。
「で、この辺境の村になんの用ですか?」
とまぁ単刀直入に聞いておこう。
相手は僕が若いことで侮ってくれてそうだからね。
老練な交渉術なんてかましたら警戒されちゃうだろ?
ここは腹の探り合いの場だ。
こっちはあくまで未熟な若き村長のていでこちらの手札を見せずに相手の手札を晒してもらう。
「いやね、旅の途中でたまたま立ち寄ったゼニナルの街でこの村の噂を聞いたもんで、真相を確かめようかと思ってこうしてはるばるとやって来たってわけです」
一応リーダー格なのか、交渉担当なのか、単に年長ってだけなのか、四人の中で一番年かさっぽい男が無遠慮に言ってくる。
うん、たったこれだけで色々判ったことがあるぞ。
まず第一に彼らは(僕基準で)優秀じゃない。
これは文明水準の問題だな。
学がないんだ。
たぶん貴族と交渉したこともないだろう。
貴族と交渉したことがあれば多少なり敬語を使うはずだ。
いくら僕があなどりやすいったって一応は村の代表者だからね。
最低限の敬意があってもいいはずだ。
ところが彼らはそういった敬意を示して来ない。
これは彼らが普段大きな集団・組織に帰属していないことも関係しているだろう。
次にこの村に来た目的が自発的じゃないことが判る。
この手のアウトローが自ら進んでこんな辺境の田舎町を見に来ようだなんて、まず思わない。
この村は確かとなり村まで歩いて三日以上の距離にある。
貴重な食料を用意して往復で六日七日とかけてやってくるにはそれなりの思惑があってしかるべきだ。
きっと誰かに雇われているに違いない。
さて、ではもう少し探りを入れよう。
「そうですか。で、その噂というのはどのようなものでしょうか?」
「野盗に襲われた村だが村人が戻って復興しつつあるという話だった」
「なるほど」
噂の尾ひれとしてはおとなしい方だな。
たぶん元情報に近い噂だ。
人の噂は拡散するほど尾ひれが大きくなる。
「なるほど見た所襲われた影響などほとんど残っていないようで」
これはおべっかってやつかな?
他に見るべきところがあったでしょうよ。
「いえいえ、まだまだですよ」
と、謙遜しておこう。
「長旅でさぞお疲れのことでしょう。じきに陽も暮れますから今日は村でお泊まりください。復興途中でろくなおもてなしもできませんが食べるものと寝る場所くらいは提供できますので」
「じゃあお言葉に甘えて」
さて、この村では他所 から人が来ると歓待の宴が開かれていたんだけど、それは滅多に人が立ち寄らないからできたことだと思うんだ。
とはいえ宴には先人の知恵が詰まっているからなぁ……。
例えば宴でベロベロに酔わせてゴニョゴニョするってのも田舎の村では必要なことだったりするんだけど、今のところ近親交配は全く考慮する必要がないわけで……。
うーん……新しい村には新しい習俗を考えるか。
とりあえず今回は僕の家で何人か集めてささやかに開くことにしよう。
──ということで集めた村人はオギンにザイーダ、サビー、イラード、そしてストゥラー夫妻。
この人選は宴のメンバーとしてはちょっと偏ってる気がするけど、適材適所の人選だと思うんだ。
ストゥラー夫妻は長年ジョーの使用人を務めていて、ジョーの在宅中は身の回りの世話もする。
来客をもてなすのにこれ以上の人選はない。
サビーとイラードは護衛役だ。
オギンもザイーダも腕は立つけど今回は綺麗どころの役を担ってもらう。
セクハラとは言わせないよ。
時代的に。
僕の家は一階は土足OKにしている。
ここら辺はこの世界の風習に合わせている。
二階へ上がる階段脇に靴箱があって、階段から上は土足厳禁だ。
ちなみにまだ残している小屋も風除室で靴を脱ぐことになってる。
四人は最初日本建築風味のこの家を興味深そうに物色していたけれど、料理が出てからは食べることと会話に集中し始めた。
ここら辺は接待慣れした中年サラリーマンの経験が役に立つってもんだ。
彼らとの会話で判ったことは、彼らにこの村を探ってきてもらうよう頼んだのがズラカルト男爵配下の人物らしいこと。
三人と一人のグループ(一人の側をグループと呼んでいいものか、モヤっとするけど)が一つのグループとして依頼を受けたこと。
二、三日滞在して帰るつもりだということだ。
二時間ほどの接待で聞き出せたのがそれっぽっちか? って?
いやいや、これだけ聞き出せれば十分でしょう。
本人たちは二、三日滞在して帰ることだけ話したつもりでいるよ。
あとのことは他愛ない会話をつなぎ合わせて得た知見だ。
本人たちは喋った記憶もないだろう。
そこはほれ、僕の接待技術とオギン、ザイーダの接待の賜物だ。
これ以上知る必要はないと見切りをつけて、僕は宴を締めることにした。
「さて、話は尽きませんがなにせここは辺境の農村なので朝が早いものですから、ここらあたりでお開きとさせていただきたいのですが……」
「おお、もう、そんな時間ですか。これは失礼。あまりにも楽しいもので……いやいや、では」
とか、自分でも何言ってっか判ってないよ、きっと。
この人。
まぁ、それを見越してしこたま飲ませたんだけど。
一人だけ量を抑え てる人がいるみたいだけど。
「復興途中の村ですから、宿などもございませんし、今日はここに泊まっていってください」
もっとも、田舎の村に宿などそもそもなかったけど。
「そうですか、ではお言葉に甘えて」
と、四人の旅人は立ち上がり、ザイーダに案内されて客室に引き上げていく。
…………。
「オギン」
「はい」
「一人酔いつぶれていないのがいた」
「判りました」
物分かりのいい人は好きだ。
僕ら農村の男たちとはまた違った肉付きの男たちだ。
どちらかといえばガーブラタイプだな。
「ようこそ」
まずは当たり障りのない挨拶から。
「この村の村長です」
うん、戸惑うよね。
判るよ、僕、若いからね。
まあそこはほら、旅慣れた人たちだからだろう、素早く気を取り直して自己紹介をしてくれた。
もっとも名乗ったのは通り名ってやつだけどね。
「で、この辺境の村になんの用ですか?」
とまぁ単刀直入に聞いておこう。
相手は僕が若いことで侮ってくれてそうだからね。
老練な交渉術なんてかましたら警戒されちゃうだろ?
ここは腹の探り合いの場だ。
こっちはあくまで未熟な若き村長のていでこちらの手札を見せずに相手の手札を晒してもらう。
「いやね、旅の途中でたまたま立ち寄ったゼニナルの街でこの村の噂を聞いたもんで、真相を確かめようかと思ってこうしてはるばるとやって来たってわけです」
一応リーダー格なのか、交渉担当なのか、単に年長ってだけなのか、四人の中で一番年かさっぽい男が無遠慮に言ってくる。
うん、たったこれだけで色々判ったことがあるぞ。
まず第一に彼らは(僕基準で)優秀じゃない。
これは文明水準の問題だな。
学がないんだ。
たぶん貴族と交渉したこともないだろう。
貴族と交渉したことがあれば多少なり敬語を使うはずだ。
いくら僕があなどりやすいったって一応は村の代表者だからね。
最低限の敬意があってもいいはずだ。
ところが彼らはそういった敬意を示して来ない。
これは彼らが普段大きな集団・組織に帰属していないことも関係しているだろう。
次にこの村に来た目的が自発的じゃないことが判る。
この手のアウトローが自ら進んでこんな辺境の田舎町を見に来ようだなんて、まず思わない。
この村は確かとなり村まで歩いて三日以上の距離にある。
貴重な食料を用意して往復で六日七日とかけてやってくるにはそれなりの思惑があってしかるべきだ。
きっと誰かに雇われているに違いない。
さて、ではもう少し探りを入れよう。
「そうですか。で、その噂というのはどのようなものでしょうか?」
「野盗に襲われた村だが村人が戻って復興しつつあるという話だった」
「なるほど」
噂の尾ひれとしてはおとなしい方だな。
たぶん元情報に近い噂だ。
人の噂は拡散するほど尾ひれが大きくなる。
「なるほど見た所襲われた影響などほとんど残っていないようで」
これはおべっかってやつかな?
他に見るべきところがあったでしょうよ。
「いえいえ、まだまだですよ」
と、謙遜しておこう。
「長旅でさぞお疲れのことでしょう。じきに陽も暮れますから今日は村でお泊まりください。復興途中でろくなおもてなしもできませんが食べるものと寝る場所くらいは提供できますので」
「じゃあお言葉に甘えて」
さて、この村では
とはいえ宴には先人の知恵が詰まっているからなぁ……。
例えば宴でベロベロに酔わせてゴニョゴニョするってのも田舎の村では必要なことだったりするんだけど、今のところ近親交配は全く考慮する必要がないわけで……。
うーん……新しい村には新しい習俗を考えるか。
とりあえず今回は僕の家で何人か集めてささやかに開くことにしよう。
──ということで集めた村人はオギンにザイーダ、サビー、イラード、そしてストゥラー夫妻。
この人選は宴のメンバーとしてはちょっと偏ってる気がするけど、適材適所の人選だと思うんだ。
ストゥラー夫妻は長年ジョーの使用人を務めていて、ジョーの在宅中は身の回りの世話もする。
来客をもてなすのにこれ以上の人選はない。
サビーとイラードは護衛役だ。
オギンもザイーダも腕は立つけど今回は綺麗どころの役を担ってもらう。
セクハラとは言わせないよ。
時代的に。
僕の家は一階は土足OKにしている。
ここら辺はこの世界の風習に合わせている。
二階へ上がる階段脇に靴箱があって、階段から上は土足厳禁だ。
ちなみにまだ残している小屋も風除室で靴を脱ぐことになってる。
四人は最初日本建築風味のこの家を興味深そうに物色していたけれど、料理が出てからは食べることと会話に集中し始めた。
ここら辺は接待慣れした中年サラリーマンの経験が役に立つってもんだ。
彼らとの会話で判ったことは、彼らにこの村を探ってきてもらうよう頼んだのがズラカルト男爵配下の人物らしいこと。
三人と一人のグループ(一人の側をグループと呼んでいいものか、モヤっとするけど)が一つのグループとして依頼を受けたこと。
二、三日滞在して帰るつもりだということだ。
二時間ほどの接待で聞き出せたのがそれっぽっちか? って?
いやいや、これだけ聞き出せれば十分でしょう。
本人たちは二、三日滞在して帰ることだけ話したつもりでいるよ。
あとのことは他愛ない会話をつなぎ合わせて得た知見だ。
本人たちは喋った記憶もないだろう。
そこはほれ、僕の接待技術とオギン、ザイーダの接待の賜物だ。
これ以上知る必要はないと見切りをつけて、僕は宴を締めることにした。
「さて、話は尽きませんがなにせここは辺境の農村なので朝が早いものですから、ここらあたりでお開きとさせていただきたいのですが……」
「おお、もう、そんな時間ですか。これは失礼。あまりにも楽しいもので……いやいや、では」
とか、自分でも何言ってっか判ってないよ、きっと。
この人。
まぁ、それを見越してしこたま飲ませたんだけど。
一人だけ量を
「復興途中の村ですから、宿などもございませんし、今日はここに泊まっていってください」
もっとも、田舎の村に宿などそもそもなかったけど。
「そうですか、ではお言葉に甘えて」
と、四人の旅人は立ち上がり、ザイーダに案内されて客室に引き上げていく。
…………。
「オギン」
「はい」
「一人酔いつぶれていないのがいた」
「判りました」
物分かりのいい人は好きだ。