第320話 ファンタジー世界の攻城戦

文字数 2,536文字

「作戦を伝える。魔法部隊による裏門一点突破。明日一日で砦を陥落させるぞ」

 と、まず宣言してから各配置を指示、翌日に備えて軍議を解散する。
 明けて払暁、腹持ちのよいポモイトのスープで体を温めつつ腹を満たして陣を払う。
 今日の夜は砦で休むという不退転の決意を示している。
 ノサウス隊は中央で今日も先陣を任せているが、彼らの背後にはラバナルを含む魔法部隊が魔道兵器を準備して射程距離を測りつつ前進している。
 右翼はイラードとラビティア、左翼は僕が受け持つ。
 左右の部隊は守兵の戦力分散を企図した牽制部隊なので射撃部隊が多めに編成されている。
 この編成の機動力が自軍のウリと言ってもいい。
 作戦内容に合わせてささっと兵種ごとに組み替えて将に預けるのだ。
 もっとも将の用兵能力によってはうまく機能しないこともあるだろう。
 サビーやガーブラに弓兵を充てがっても白兵戦に散らしてしまわないとも限らない。
 ま、さすがにそこまで猪武者ではないと信じたいけどね。
 今日の先制は敵の弓矢での攻撃だ。
 まぁ、城壁の上から射ちあげられる矢は物理的に寄せ手の僕らより飛距離が長い。
 銃兵を温存していることもあるけれど、主軍に向けてすべての矢が降り注ぐ。
 まだ有効射程外なので慌てることはないのだけれど、弾幕によって前進が著しく阻害されているのは事実だ。
 僕は左翼軍に前進を命じて攻撃の一部を引き受ける。
 右翼でも同様に城壁に近づこうと試みているようで、中央軍への弾幕密度が疎になった。

「銃兵」

 ウータの下知によって銃兵が小銃(ライフル)を構える。
 小銃の射程距離は弓より長い。
 この位置からでも十分な威力を発揮できるだろう。
 ただし、戦力は中央に分厚く配置しているのでここの銃兵は多くない。

「まずは一斉射。その後釣瓶打ちにして弓兵の前進を助ける。銃弾は支給されている一箱までだ。よいな」

「応」

 と、返事が返ってくる。

「撃て!」

 魔法による弾丸の射出は火薬と違って爆発音を伴わない。
 空気鉄砲のようにシュポッっと圧縮された空気が吐き出される音がするだけなので、相手にはいつ発射されたかほとんど判らないに違いない。
 数十の弾丸が城壁の上の射手に当たる。

「前進」

 一瞬なにが起こったのか理解できなかったに違いない。
 その隙に弓兵が盾を持った歩兵に守られながら有効射程圏まで前進していく。
 その間、銃兵が間断なく城壁上の守備兵を狙って撃ちまくる。
 いい感じだ。
 そう思った矢先、中央に陣取っていた一部の弓兵が、左翼に狙いを変更して射ってきた。
 損害としては痛いけど、作戦としては狙い通り中央軍に対する弾幕が薄くなるのだから、覚悟の前だ。
 右翼でも作戦通り銃兵を活用して正面の攻撃圧力を弱めているだろう。

「ここが正念場だ。銃兵、残弾はあるか? 弓兵、恐れず前進せよ! 盾兵は弓兵を守り抜くんだ。前進、前進!」

 左右の軍が守兵を一人でも多く引きつけることが結果として正面突破の助けになるのだ。
 ここで兵の損失を恐れているとそれが兵士に伝染してしまう。
 ここは強気強気で鼓舞し続けることが結果的に兵を守ることに繋がると信じて声を枯らす。

 どぉん。

 と、大きな衝突音が響く。
 大砲(キャノン)の攻撃が始まったようだ。
 まずは砲丸による距離合わせ。
 次に、魔法陣が刻まれた榴弾が飛ぶだろう。
 榴弾は着弾をきっかけに破裂するように魔法陣が刻まれている。
 魔法による射撃は火薬と違って威力、精度に差が少ない。
 火薬の爆発による射出とも違うので反動による大砲の移動もほとんどないことから、一度狙いを定めればほぼほぼ同じところに着弾するという利点がある。
 何度かの破裂音の後、敵兵が砦の中から飛び出してきた喚声が聞こえてきた。

「弓兵、城壁の上を狙い射て!」

 乱戦になると飛び道具は友軍(フレンドリー)誤射(ファイア)の危険があるので使えなくなる。
 手が空いた弓兵が狙いを変更するなら当然、左右の軍ということになるだろう。
 今のうちに少しでも射ち減らしておかなきゃ、兵の損失が無駄に増えてしまう。

「銃兵、予備銃弾の使用を許可する。狙い撃て!」

 改めて戦況の推移を確認しようと顔を巡らせてみたら、頬を湿気た風が撫でていく。
 見上げると砦の上に黒雲が渦を巻くように流れ込んでいた。
 僕はそばに侍っているチャールズを確認する。

「ラバナル師でしょう」

 訊ねるまでもなくチャールズが答える。

「撃ち方やめ! 左翼、全軍後方へ百シャル後退。チャールズは右翼に連絡」

 改めて見ると、中央で白兵戦を演じているノサウスの軍がジリジリと押されて後退しているように見える。

「うまいもんですな」

 と、僕の横にホルスを寄せてきたアゲールがいう。

「判るか」

「はい。歩兵を吊り出しているのでしょう?」

「少し違うな」

「というと?」

「砦の上を見ろ。魔法で生み出した雷雲だ」

「雷雲……ということは」

 十分距離を稼いだと判断したのだろう。
 ラバナルは魔法を完成させる。
 静電気が飽和して閾値を超えると放電され雷となる。
 その際周囲の空気が一万度を超えて光を生み空気を切り裂いていく過程で衝撃波を生む。
 大電流による瞬間的な熱膨張を受けて生まれるのは水蒸気爆発と火災、そして至近の人を吹き飛ばせるほどの衝撃波。
 電撃(ライトニング)の魔法はピンポイントに落雷させることこそ不可能だけれど、物理法則に従って放たれる。
 雷は金属に向かって落ちやすい傾向になるのだ。
 当然、戦場には金属が、鉄が大量に存在する。
 より高いところ、城壁にいる兵士は手にこそ弓を握っているが身につけている鎧にも腰に佩いている剣にも鉄が使われているのだから雷雲から放たれる電撃が落ちやすかろう。
 あるものは直撃を受け感電し、またあるものは衝撃波によって城壁の上から吹き飛ばされる。
 僕らも至近と言えるほど近くにいるのでバリバリと空気の裂ける音が光と共に聞こえてくるので背筋がゾッとおぞける。
 やがて頃合いとみたのだろう。
 雷雲を霧散させあたりに日差しが戻ってくる。

「突撃!」

 僕の下知で全軍に突撃命令の銅鑼が鳴らされる。
 中央軍の反転攻勢に右軍が合流、そのまま壊れた城門まで押し返していく。
 少し遅れてここ、左軍も合流すると城門を巡る攻防の趨勢は決したと言ってもいい。
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