第188話 為政者の都合

文字数 2,247文字

 宿場の代表は入れ札で決め、五年ごとに代表を決め直す。
 当初の腹案通りに決定した。

「次の議題は大臣に直属の文官をつける案です」

 ホーク・サイが議事を進める。
 文官が黒板に要点を板書して、セイ・シャーラックが議事録をまとめる。

「それは先程の案件と矛盾しておりませんか?」

 ルダーの再三の引き抜き要請を断ってきた人物らしく、早速異を唱えてきたのはハンジー町代官のサイ・カーク。

「文官不足はうちも同じだ。しかし、代官が多くの文官を使役している一方で、大臣が一人で実務にあたることをどうお考えか?」

 と、オクサ。

「ワタシも含めて多くの大臣が休みなく働いているのをご存知か?」

 イラードに訊かれてサイは頷く。

「では、権限行使にいちいち代官の許可を受けて文官を借り受ける状況をサイ殿は健全と思われているのか?」

「う……」

「こういってはなんだが、サイ殿は自分の才を過大に評価し他者を見下す傾向がありはしないか?」

「…………」

「なるほどお館様が代官に任命するほどだ、その才はワタシも認めよう。事実、代官が置かれている三町で現在最も順調に施策が進められている。しかし、グリフ族との交渉の際も独断専行してグリフ族を侮り、お館様の不興を買ったばかりでなく、お館様の手を煩わせたことをよもや忘れたわけではなかろう?」

 きついこと言うね、イラード。

「そなたはあくまでお館様の意向を汲み、各大臣の示す施策を遂行する代官であるという立場を弁えるのも大事なことだと思うぞ」

 同じく代官を任されているオクサに諭されれば、頭を下げるほかないわな。
 それにしたってイラードもずいぶん言葉をあらためてるな。
 僕も意識的に「私」と自称したり、威厳を演出して堅苦しい言い方してるけど。

「サイよ、私はなにも代官の仕事に支障をきたすほど文官を町から奪おうといっているわけではない。私にサイら代官が必要なように、大臣たちにも大臣を補佐するものが必要だといっているに過ぎない。それに、ただでさえ人手が足りない中から都度(つど)人員を工面するよりよほど効率的とは思わんか?」

「……確かに」

「イラード。各大臣に二名、次の文官登用試験後に配属でいいか?」

「新登用の文官でなければ」

「副大臣にあてるのだ、優秀なものでなければ務まるまい。三町の代官は各町から特に優秀なものを十名ほど選抜し、大臣に選ばせることとしよう」

「御意のままに」

「……あー、わがままついでに私にも一人選ばせろ」

「は?」

 イラード、その「は?」はちょっと間抜けだよ?

「意中の者がおるのですか?」

 オクサが訊ねてくる。

「以前から目をつけていたのだがな、コンドー・ノレマソと言う男だ」

「追加試験のきっかけになったという男ですね」

 記憶力抜群だね、キャラ。

「彼がそうだったのですか。なるほど、ある意味納得ですな。しかし、彼をお館様が獲るとルダー殿が不貞(ふて)(くさ)れると思いますが」

 サイが苦笑する。

「サイにも悪いと思うがな」

「今年に入ってからはずっとルダー殿の許に置かされているので、最初からいなかったものとして諦めます」

 他に心の整理のつけようがないだろな。

「ではお館様、例の新税の件を」

 む、次は外交の話をしたかったのだけど、人材の件で折れてもらっているしどのみち議題なんだし、いいか。

「サイ、説明せよ」

「はい。ハンジー町は現在優先的に開発を進めている地域なのはご承知でしょう。旧二の町城壁はあらかた解体撤去がすみ、狭く衛生環境のよくない旧町域から外に移転する動きがあります」

「父の治めるオグマリー町も現在内壁撤去がすみ、城壁跡地にいくつもの建物が立ち始めています」

 オグマリー市は古くからある城塞都市だったようで元々の町域であった内壁と、新たな町域を守る目的で築かれた外壁があった。
 内壁は過去の暴動で城壁の用は果たしていなかったとはいえ、撤去もしていなかった。
 そこで、空き家などと一緒に内壁撤去をし、解体撤去で広がった空き地に再開発が行われている。

「クレタ厚生大臣が衛生環境改善のために推奨すると言うことでそれ自体は悪くないのですが、お館様の政策的には率先して農地を開墾して農業労働に従事してもらうように働きかけよとなっております」

「確かに」

 ルビンスが嫁の名前が出たことで居心地悪そうにしている。

「オグマリー区の土地はお館様のもの。城壁内の再開発をしているオグマリー町と違って、ハンジー町の開拓目的は農地拡大です。そこに城内では望めなかった大きな邸宅と広い敷地を確保されては農村住人達に対しての示しがつきません」

「それはここゼニナル町でも問題になることだな。特に財に余裕のある商人どもが多い土地柄だ。お館様のお住まいより広大な敷地や邸宅など建てかねん」

「そこでお館様に相談し『一軒家は土地を占有する行為なので、新規に家を建てた場合は土地利用税をとることとする』という案が示されました」

 全員が僕を見る。

「しかし、それでは農民が困りはしますまいか?」

 ただでさえ決して裕福ではない農民が、新規開拓地で家を建てる際に税を取られるとなると躊躇するだろうと言う懸念だ。
 もっともだ。

「『ただし、農業専従者はこれを免除する』って付則をつけて、だ」

 僕が付け加える。

「なるほど。悪くない案です。それは城壁内にも適用するのですか?」

「当然だ」

「我らも、ですか?」

「当たり前だろう」

 残念そうだな、ラビティア。

「イラード。商人どもの財務状況などを精査して、金額を詰めてくれ」

「はぁ……」

 盛大なため息だな、おい。
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