第121話 みんな悪党だな
文字数 2,013文字
会議は続く。
次の議題は第四中の村の接収計画だ。
第四中の村自体はこちらに寝返る気があるようなのだけれど、中核にある町がそんな気ないのだ。
こちらはハンジー町より大きく一町四ヶ村で構成されていて人口七百人以上。
他三ヶ村は先の町と呼ばれているので第四中の村は冷遇されている(実際そうなのか、そう感じているだけなのかはこの際関係ない)ので帰順したいのだという。
コロニー立地でいえば商都ゼニナルの側にあってオグマリー市にも近い。
とはいえ中の町の名の通り、コロニーの一番奥に存在していて旧第五中の村ことセザン村の繁栄っぷり、ひいては僕の評判が高まっているという現在の状況的に、放置は良くないだろうというのが会議参加者の一致した見解だ。
「とはいえ、本格的な軍事衝突は難しいぞ」
セザン村で軍隊長に就いているカイジョーがいう。
「特にハンジー町にバンバたちを派遣するとなるとセザン村の戦力もおぼつかないくらいですからね」
と、イラードが補足する。
「けど、増税に苦しむ村が助けを呼ぶような形なんだろ? それを宙ぶらりんでほっとくとなると仮にその後穏便に接収できたとしても村人たちにしこりを残さないか?」
ルダーは宙に視線をさまよわせて人差し指を立てた右手をくるくると回す。
残る。
そりゃ、きっと残るぞ。
「ワタシも年内の接収は無理筋だと思います。しかし、秋波を送られているのを無視することも得策ではないことは理解できます。次善の策を考えるという方向で考えるしかありませんね」
「息子よ、次善ではダメだ。最善を模索するのが為政者の務めである」
この親子は固い。
「じゃあよ、ルビレルの考える最善ってのはなんだい?」
「村の接収はできないが、なんらかの援助をする策……ということでしょうか?」
「援助ねぇ……ルビレルなら承知の上だとは思うがよ、第四中の村は第六先の村と町と隣接してるんだぜ?」
「承知している」
「気づかれずにできる援助って具体的にどんなことだと思うのよ?」
ジョーの心配していることが判ってきたぞ。
今年のズラカルト男爵領の徴税は収穫量の七割五分、普通に考えて冬を越すのに厳しい量だ。
戦国時代の百姓並みに自分で作った作物を自分で食えないレベルといえる。
援助するなら食い物だろう。
しかし、近隣の村も同じ状況の中、第四中の村だけが悠々と冬を越してみなさい。
どう思われるかなんて推して知るべしってやつじゃあないか。
「むう、なるほど」
「でも、それ以外になにがある?」
ルダーの問いに今度はジョーがうなる。
「だよねー」
僕もうなる。
「ついでに第六先の村もその手で買収するのはどうですか?」
「え?」
「買収です。第六先の村にも支援物資を送るのです。残念ながら町を通らなければ行けない第四、第五先の村は諦めざるを得ないと思いますが、第六先の村なら町の代官に知られることなく物資を送ることもできるのではありませんか?」
採用!
チャールズやるね。
「そういう切り崩し工作ならハンジー町経由で第三先の村……いや、第二先の村まで買収できるかもしれませんよ?」
こういう策での思考展開は早いねー、イラード。
「ジョー、ルダー、どれくらの物資が必要だろう?」
「今すぐ見積もり出せってか? さすがに無理だぞ」
そりゃそうか。
「そもそも現在の備蓄量を把握していないぞ、俺はずっとボット村にいたんだから」
「備蓄量ならこのブロロが把握しています」
さすが、暫定首都バロ村の代官。
いやぁ、こんなに有能だとは思わなかった。
「しかし、それをするなら今年は男爵側に納税する予定のハンジー町にも援助しなければならなくなりませんか?」
あ。
よく気づいた、オギン。
「じゃあ、奪っちゃいますか」
イラードがなんでもないことのように恐ろしいことを言う。
ところが、それにカイジョーとチャールズが賛同した。
おっと?
「今の第二中の村と第三先の村の間は徒歩二日の距離です。露営地前で荷を奪えばオグマリー市までは第三、第二、第一先の村を通って徒歩四日、仮にホルスを飛ばしたとしても片道二日はかかりますから悠々逃げられるんじゃないですかね?」
なるほど、悪党働きおっぱじめようってか?
楠木正成を目指そうとか言ってたもんな、僕。
そりゃいいね。
「よし、それを採用しよう。ついでに僕の名を売ることにも利用しよう」
「お館様自ら出陣なさるのですか?」
「なにかまずいことでも?」
「いえ、お館様の戦術は防衛戦で身をもって体験しております。その掠奪戦、ワタシもお供に加えてください」
いいのか? ルビンス。
ルビレルの眉間にシワが寄ったぞ?
「では、ワシもお願いしましょうかな」
ル、ルビレル!?
「がはははは! 面白い! オレも参加させろ。いや、この作戦は一般兵には無理だぞ。荷を奪う人足以外は傭兵と騎士殿に任せるべきだ」
「ワタシたちも頭数に入れてくださいね、お館様」
……みんな暴れたいだけだろ。
次の議題は第四中の村の接収計画だ。
第四中の村自体はこちらに寝返る気があるようなのだけれど、中核にある町がそんな気ないのだ。
こちらはハンジー町より大きく一町四ヶ村で構成されていて人口七百人以上。
他三ヶ村は先の町と呼ばれているので第四中の村は冷遇されている(実際そうなのか、そう感じているだけなのかはこの際関係ない)ので帰順したいのだという。
コロニー立地でいえば商都ゼニナルの側にあってオグマリー市にも近い。
とはいえ中の町の名の通り、コロニーの一番奥に存在していて旧第五中の村ことセザン村の繁栄っぷり、ひいては僕の評判が高まっているという現在の状況的に、放置は良くないだろうというのが会議参加者の一致した見解だ。
「とはいえ、本格的な軍事衝突は難しいぞ」
セザン村で軍隊長に就いているカイジョーがいう。
「特にハンジー町にバンバたちを派遣するとなるとセザン村の戦力もおぼつかないくらいですからね」
と、イラードが補足する。
「けど、増税に苦しむ村が助けを呼ぶような形なんだろ? それを宙ぶらりんでほっとくとなると仮にその後穏便に接収できたとしても村人たちにしこりを残さないか?」
ルダーは宙に視線をさまよわせて人差し指を立てた右手をくるくると回す。
残る。
そりゃ、きっと残るぞ。
「ワタシも年内の接収は無理筋だと思います。しかし、秋波を送られているのを無視することも得策ではないことは理解できます。次善の策を考えるという方向で考えるしかありませんね」
「息子よ、次善ではダメだ。最善を模索するのが為政者の務めである」
この親子は固い。
「じゃあよ、ルビレルの考える最善ってのはなんだい?」
「村の接収はできないが、なんらかの援助をする策……ということでしょうか?」
「援助ねぇ……ルビレルなら承知の上だとは思うがよ、第四中の村は第六先の村と町と隣接してるんだぜ?」
「承知している」
「気づかれずにできる援助って具体的にどんなことだと思うのよ?」
ジョーの心配していることが判ってきたぞ。
今年のズラカルト男爵領の徴税は収穫量の七割五分、普通に考えて冬を越すのに厳しい量だ。
戦国時代の百姓並みに自分で作った作物を自分で食えないレベルといえる。
援助するなら食い物だろう。
しかし、近隣の村も同じ状況の中、第四中の村だけが悠々と冬を越してみなさい。
どう思われるかなんて推して知るべしってやつじゃあないか。
「むう、なるほど」
「でも、それ以外になにがある?」
ルダーの問いに今度はジョーがうなる。
「だよねー」
僕もうなる。
「ついでに第六先の村もその手で買収するのはどうですか?」
「え?」
「買収です。第六先の村にも支援物資を送るのです。残念ながら町を通らなければ行けない第四、第五先の村は諦めざるを得ないと思いますが、第六先の村なら町の代官に知られることなく物資を送ることもできるのではありませんか?」
採用!
チャールズやるね。
「そういう切り崩し工作ならハンジー町経由で第三先の村……いや、第二先の村まで買収できるかもしれませんよ?」
こういう策での思考展開は早いねー、イラード。
「ジョー、ルダー、どれくらの物資が必要だろう?」
「今すぐ見積もり出せってか? さすがに無理だぞ」
そりゃそうか。
「そもそも現在の備蓄量を把握していないぞ、俺はずっとボット村にいたんだから」
「備蓄量ならこのブロロが把握しています」
さすが、暫定首都バロ村の代官。
いやぁ、こんなに有能だとは思わなかった。
「しかし、それをするなら今年は男爵側に納税する予定のハンジー町にも援助しなければならなくなりませんか?」
あ。
よく気づいた、オギン。
「じゃあ、奪っちゃいますか」
イラードがなんでもないことのように恐ろしいことを言う。
ところが、それにカイジョーとチャールズが賛同した。
おっと?
「今の第二中の村と第三先の村の間は徒歩二日の距離です。露営地前で荷を奪えばオグマリー市までは第三、第二、第一先の村を通って徒歩四日、仮にホルスを飛ばしたとしても片道二日はかかりますから悠々逃げられるんじゃないですかね?」
なるほど、悪党働きおっぱじめようってか?
楠木正成を目指そうとか言ってたもんな、僕。
そりゃいいね。
「よし、それを採用しよう。ついでに僕の名を売ることにも利用しよう」
「お館様自ら出陣なさるのですか?」
「なにかまずいことでも?」
「いえ、お館様の戦術は防衛戦で身をもって体験しております。その掠奪戦、ワタシもお供に加えてください」
いいのか? ルビンス。
ルビレルの眉間にシワが寄ったぞ?
「では、ワシもお願いしましょうかな」
ル、ルビレル!?
「がはははは! 面白い! オレも参加させろ。いや、この作戦は一般兵には無理だぞ。荷を奪う人足以外は傭兵と騎士殿に任せるべきだ」
「ワタシたちも頭数に入れてくださいね、お館様」
……みんな暴れたいだけだろ。