第51話 密談 お主も悪よのぅ
文字数 2,161文字
ルダーを連れ立って僕は館に戻る。
館につくとザイーダが現れた。
「なにかあったのか?」
「いえ、御用がおありかと」
よく気がつきますこと。
「じゃあ、イラードを呼んできてもらえないかな?」
「ワタシならここに」
うおっ!
後ろから突然声をかけてこないでくれ。
「じゃあ、みんな中へ」
と三人を招き入れる。
館の一階は基本的にはこの世界の常識にならって土足でいいのだけど、二階と奥座敷は土足禁止になっている。
その奥座敷には囲炉裏が切ってあって常時火種を絶やさない。
その囲炉裏に炭をくべ水を入れた深鍋を乗せる。
お茶が欲しいなぁ……。
他の地域がどうか知らないけど、この村では昔から水を沸かして飲んでいた。
白湯であったり湯冷ましであったり、基本生水は飲まない。
この季節ならダリプの果汁 が子供達に人気だった。
大人たちはまぁダリプ酒を昼 日 中 から飲んでた。
原始的な醸造だからか、甘くてアルコール分低めなので水のようにがぶがぶ飲めてしまえる。
けど今は、僕の前世知識から平日は仕事中に飲んではいけないことにしている。
アルコールは脱水を促すし、肝臓に悪いしね。
ルダーが四人分のカップを持ってくる。
勝手知ったる他人 の家ってやつか?
ザイーダは野生のスタベラをジャムにしたものを湯の中に入れる。
甘酸っぱくて疲れた体になかなか効果がある。
そうか、日本茶的なのは難しくてもハーブティー的なものなら飲めるかもしれない。
「ルダー、ハーブティー的なものってできそう?」
「ん? 食える草はいくつかあるけど、うまい飲み物になるかどうかは……」
「アニーたちと一緒に試してみてよ」
「んーん……まぁ、来年な」
あ。
そろそろ冬枯れの時期か。
仕方ないな、本題に入ろう。
「さて……」
と、飲み物で一息ついた三人を見回し視線を集める。
「今晩宴が開かれるわけだけど、みんなにはこの宴で僕を正式な村長にしてもらいたい」
「正式な村長?」
と、ザイーダが「なにを言ってんだ?」って顔で聞き返す。
イラードも
「正式もなにもお館様はこの村の村長でしょう」
と、さも当然と言った口調で言う。
判ってないなぁ。
チラリとルダーを見るとこっちはなんとなくニュアンスがつかめていそうだ。
イラードもザイーダも村の中では結構な知識人なはずだけど、この辺りの機微は文字が読めるからと言って理解認識できるもんじゃないのかな?
「今僕は、元々の村の住人ということで村長をやっている」
そこで区切ってみんながうなずくの確認する。
「最初の七人はその経緯を知っているしある意味納得している」
「知識や復興活動の運営を率先して行なっていたし、実績もある。誰もが納得していると思うが?」
と、ルダーは言うけどそうとも言えない。
「さて、それはどうだろう? 後から来た人たちの中には僕を幼くて経験不足、信用ならないと思っている人も少なくないと思うんだ」
「確かに若いと侮っている村人が数人いますね」
さすが、諜報部。
ザイーダはそこらへんの情報もちゃんと持っていたようだ。
「なるほど、今は復興に力をあわせる都合もあって声に出していないだけで、お館様が村長でいることに不満を持っているものがいるのですね」
「そう! 彼らはきっと『仮の村長』と思っているんだと僕は考えてる。復興作業も一段落したら『今の村長で本当にいいのか?』とか言い始めるに違いない」
ま、この辺は半分被害妄想なんだけど。
「そこで、この機会に村の総意として僕を村長として正式に認めさせる」
「できますか?」
いい質問だよ、ザイーダ。
「ふむ……このタイミングならできなくないぞ、ザイーダ。村の復興に尽力してきたことは誰もが認めるところだ。そして昨日の野盗襲撃を陣頭指揮をとって見事に防ぎきった手腕。これでお館様を村長として認めないなんて他の村人が許さないだろうよ」
「ああ、そりゃそうだね」
「で? 俺たちに村長にしてくれってのはどう言うことだ」
「いい質問だよ、ルダー。イラードが言った通り、今は絶好のタイミングなんだ。だけど僕が言ったんじゃ角が立つし下心見え見えだ。とは言っても、誰かが言い出さなきゃ不満を持っている村人の認識がいつまでも仮の村長のまま……しばらくすると『あいつでいいのか?』問題が再発するかもしれない」
「なるほど、それでうちらに正式に村長に決めようって言ってもらいたいってことですね」
「ご名答」
理解の早い人たちで助かるよ。
「今なら嫌とは言いにくいからな。一度正式に村長と認めた以上、後から否やと言い出しても『イヤイヤあの日村の総意で決めたじゃないか』と説得できる」
僕はたぶん時代劇の悪代官的なニヤリ顔を作ったと思う。
「多数派工作はいらないか?」
前世的発想だね、ルダー。
「それはいらないでしょう。察しのいいオギンやサビーを始め、ジャスやチャールズも賛同するに違いありません」
「で、この提案をする役をルダーにやってもらいたいんだ」
「え? お、俺!?」
「そう、ザイーダやイラードだとジョーの思惑を感じちゃう人が出ないとも限らない。村に来て日の浅い村人の提案では説得力がない。その点最古参のルダーなら『ああ言いそう』ってみんなに思ってもらえるだろ?」
「う……うーん…………」
「頼むよ」
「……仕方ない。引き受けよう」
やったね!
館につくとザイーダが現れた。
「なにかあったのか?」
「いえ、御用がおありかと」
よく気がつきますこと。
「じゃあ、イラードを呼んできてもらえないかな?」
「ワタシならここに」
うおっ!
後ろから突然声をかけてこないでくれ。
「じゃあ、みんな中へ」
と三人を招き入れる。
館の一階は基本的にはこの世界の常識にならって土足でいいのだけど、二階と奥座敷は土足禁止になっている。
その奥座敷には囲炉裏が切ってあって常時火種を絶やさない。
その囲炉裏に炭をくべ水を入れた深鍋を乗せる。
お茶が欲しいなぁ……。
他の地域がどうか知らないけど、この村では昔から水を沸かして飲んでいた。
白湯であったり湯冷ましであったり、基本生水は飲まない。
この季節ならダリプ
大人たちはまぁダリプ酒を
原始的な醸造だからか、甘くてアルコール分低めなので水のようにがぶがぶ飲めてしまえる。
けど今は、僕の前世知識から平日は仕事中に飲んではいけないことにしている。
アルコールは脱水を促すし、肝臓に悪いしね。
ルダーが四人分のカップを持ってくる。
勝手知ったる
ザイーダは野生のスタベラをジャムにしたものを湯の中に入れる。
甘酸っぱくて疲れた体になかなか効果がある。
そうか、日本茶的なのは難しくてもハーブティー的なものなら飲めるかもしれない。
「ルダー、ハーブティー的なものってできそう?」
「ん? 食える草はいくつかあるけど、うまい飲み物になるかどうかは……」
「アニーたちと一緒に試してみてよ」
「んーん……まぁ、来年な」
あ。
そろそろ冬枯れの時期か。
仕方ないな、本題に入ろう。
「さて……」
と、飲み物で一息ついた三人を見回し視線を集める。
「今晩宴が開かれるわけだけど、みんなにはこの宴で僕を正式な村長にしてもらいたい」
「正式な村長?」
と、ザイーダが「なにを言ってんだ?」って顔で聞き返す。
イラードも
「正式もなにもお館様はこの村の村長でしょう」
と、さも当然と言った口調で言う。
判ってないなぁ。
チラリとルダーを見るとこっちはなんとなくニュアンスがつかめていそうだ。
イラードもザイーダも村の中では結構な知識人なはずだけど、この辺りの機微は文字が読めるからと言って理解認識できるもんじゃないのかな?
「今僕は、元々の村の住人ということで村長をやっている」
そこで区切ってみんながうなずくの確認する。
「最初の七人はその経緯を知っているしある意味納得している」
「知識や復興活動の運営を率先して行なっていたし、実績もある。誰もが納得していると思うが?」
と、ルダーは言うけどそうとも言えない。
「さて、それはどうだろう? 後から来た人たちの中には僕を幼くて経験不足、信用ならないと思っている人も少なくないと思うんだ」
「確かに若いと侮っている村人が数人いますね」
さすが、諜報部。
ザイーダはそこらへんの情報もちゃんと持っていたようだ。
「なるほど、今は復興に力をあわせる都合もあって声に出していないだけで、お館様が村長でいることに不満を持っているものがいるのですね」
「そう! 彼らはきっと『仮の村長』と思っているんだと僕は考えてる。復興作業も一段落したら『今の村長で本当にいいのか?』とか言い始めるに違いない」
ま、この辺は半分被害妄想なんだけど。
「そこで、この機会に村の総意として僕を村長として正式に認めさせる」
「できますか?」
いい質問だよ、ザイーダ。
「ふむ……このタイミングならできなくないぞ、ザイーダ。村の復興に尽力してきたことは誰もが認めるところだ。そして昨日の野盗襲撃を陣頭指揮をとって見事に防ぎきった手腕。これでお館様を村長として認めないなんて他の村人が許さないだろうよ」
「ああ、そりゃそうだね」
「で? 俺たちに村長にしてくれってのはどう言うことだ」
「いい質問だよ、ルダー。イラードが言った通り、今は絶好のタイミングなんだ。だけど僕が言ったんじゃ角が立つし下心見え見えだ。とは言っても、誰かが言い出さなきゃ不満を持っている村人の認識がいつまでも仮の村長のまま……しばらくすると『あいつでいいのか?』問題が再発するかもしれない」
「なるほど、それでうちらに正式に村長に決めようって言ってもらいたいってことですね」
「ご名答」
理解の早い人たちで助かるよ。
「今なら嫌とは言いにくいからな。一度正式に村長と認めた以上、後から否やと言い出しても『イヤイヤあの日村の総意で決めたじゃないか』と説得できる」
僕はたぶん時代劇の悪代官的なニヤリ顔を作ったと思う。
「多数派工作はいらないか?」
前世的発想だね、ルダー。
「それはいらないでしょう。察しのいいオギンやサビーを始め、ジャスやチャールズも賛同するに違いありません」
「で、この提案をする役をルダーにやってもらいたいんだ」
「え? お、俺!?」
「そう、ザイーダやイラードだとジョーの思惑を感じちゃう人が出ないとも限らない。村に来て日の浅い村人の提案では説得力がない。その点最古参のルダーなら『ああ言いそう』ってみんなに思ってもらえるだろ?」
「う……うーん…………」
「頼むよ」
「……仕方ない。引き受けよう」
やったね!