第196話 本陣にて戦況を見守る
文字数 1,945文字
その四日目も投石機の砲撃から始まる。
展開としては前日とほとんど一緒だ。
大きく違うのは破城槌ではなく梯子 を持ち出されたことか。
破城槌は城門を破壊する攻城兵器だ。
木の柵や板塀、原始的な石積みの壁なら壊せようが、ルンカー積みの巨大城壁が人力の破城槌ごときで壊せるはずもなく、その城門だって簡単に突破できるようにはなっていない。
城門突破は攻城戦での攻め手側の重要な勝利条件であるが、その突破方法は一つじゃあないってことだ。
城門に取りつかれた段階で各将は歩兵を繰り出し、城門の上を固める。
もちろん簡単に登らせないために間断なく弓や小銃で弾幕を張るのだけれど、敵だって弓矢で応戦してくるのでどうしたってすべてを防ぎ切れるわけじゃあない。
最初に城壁を登り切られたのは左翼側。
(左 弦 、弾幕薄いぞ。なにやってんの!?)
(なにやってんの?)
いや、団塊Jr .としては一度は使ってみたいフレーズでして……。
まあ、白兵戦もそれほど危惧はしていない。
なにせ左翼の大将はオルバック三傑の一人だったオクサ。
副将にはこれも三傑の一人でオクサの弟ラビティアと対オルバック攻略戦の際、僕に呼応して反乱を指揮したサイがいる。
それぞれの部下には勇猛果敢な戦士たちがついているのだから、そう簡単に遅れをとるはずがない。
「しかし、最初に城門に上がられるのは右翼のダイモンドのところかと思いましたが、意外でしたね」
と、ザイーダが言うと、サビーが
「いや、あれは弓兵を預かるサイとノサウスの差だろう」
と、こたえる。
あれ? それこそ意外だな。
サビーよりザイーダの方がそういった用兵に関する目はあるのかと思っていた。
「どういうことだよ?」
と、不思議がるガーブラにサビーが答えるには
「ノサウスはチカマック配下で武官筆頭を務めていた男だ。対してサイは一介の騎士。用兵に関してはノサウスに一日 の長があったってことさ」
なるほどね。
本陣からでは実際の細かい用兵手腕は判りかねるけど、事実として左翼は白兵戦に持ち込まれ、右翼はまだ持ち堪えている。
結果を見ればサビーのいうことは間違っていないのかもしれない。
「お館様」
そんな戦況分析をしているところにキャラが入ってきた。
「キキョウからの報告です」
と、飛行手紙を渡された。
読むと、森の中を進軍中の敵奇襲部隊を発見した知らせだ。
でかした!
読みは当たっていたな。
兵数四、五百。
進軍速度から推測して奇襲は明日、日の傾き出した頃になるのではないかという見立てだ。
うちの搦 手 はどうだろう?
カイジョーは五日目には攻められると言っていたが……。
「お館様」
ザイーダが声をかけてくる。
「やはり背後をつく奇襲部隊がいたようだ。チャールズ」
「はい」
「カイジョー隊に随行させた魔法部隊に連絡をとってくれ。現状を知りたい」
「すぐにでも」
返事を終えると移動電話の元へ移動する。
「キャラ」
「はい」
「コチョウの方からは連絡はないのか?」
「来ておりません」
発見した敵部隊の兵数と敵軍総数を考えれば、左右二手に分かれて奇襲するほどの兵数ないだろう。
あったらやだな。
けど、有能な諜報員を無為に森の中に放っておくのももったいない。
「キキョウには引き続き奇襲部隊の監視を指示し、コチョウたちは呼び戻せ」
「かしこまりました」
「サビー、ガーブラ。明日未明、本陣よりそれぞれ兵七十を率いて奇襲部隊に奇襲をかけてもらう」
「待ってました!」
「腕が鳴りますな」
敵部隊四、五百に対して奇襲とはいえ合して百四十で向かわせるのは少々無茶とは思うけど、こっちには手榴弾もあるしなんとかなるでしょ。
「襲撃のタイミングはこちらから指示を出す。功を焦るなよ」
「畏まって候」
時々ガーブラって前世持ちなんじゃないかと疑いたくなるんだよな。
言動が。
「あー、森の中では長柄の槍は不利になるぞ」
「重々承知」
ガーブラの言い回しよ。
「お館様」
「チャールズ、繋がったか?」
「はい。何事もなければ、本日日暮れまでに敵陣の裏に出られる見込みだそうです」
天運、我に味方せり。
「では、夜に改めて明日の作戦を伝えると言ってくれ」
「判りました」
「ザイーダ」
「は」
「本陣に残る兵六十の指揮権を委ねる」
「お館様はいかがなさるおつもりで?」
「明日は正面で暴れる予定だ」
堂々と宣言すると、リリムが心配そうに僕の正面に浮かぶ。
(匹夫の勇ってやつじゃないの? 大丈夫?)
(リスクはあるけど、大事な時に前線に立たない将に兵はついてこない。兵の士気を上げるためにも、作戦の成功率を上げるためにも必要なことだから、決して匹夫の勇じゃない)
……はず。
「この戦、明日をもって終わらせるぞ」
(まだ、今日の戦闘が終わっていないけどね)
そうでした。
展開としては前日とほとんど一緒だ。
大きく違うのは破城槌ではなく
破城槌は城門を破壊する攻城兵器だ。
木の柵や板塀、原始的な石積みの壁なら壊せようが、ルンカー積みの巨大城壁が人力の破城槌ごときで壊せるはずもなく、その城門だって簡単に突破できるようにはなっていない。
城門突破は攻城戦での攻め手側の重要な勝利条件であるが、その突破方法は一つじゃあないってことだ。
城門に取りつかれた段階で各将は歩兵を繰り出し、城門の上を固める。
もちろん簡単に登らせないために間断なく弓や小銃で弾幕を張るのだけれど、敵だって弓矢で応戦してくるのでどうしたってすべてを防ぎ切れるわけじゃあない。
最初に城壁を登り切られたのは左翼側。
(
(なにやってんの?)
いや、団塊
まあ、白兵戦もそれほど危惧はしていない。
なにせ左翼の大将はオルバック三傑の一人だったオクサ。
副将にはこれも三傑の一人でオクサの弟ラビティアと対オルバック攻略戦の際、僕に呼応して反乱を指揮したサイがいる。
それぞれの部下には勇猛果敢な戦士たちがついているのだから、そう簡単に遅れをとるはずがない。
「しかし、最初に城門に上がられるのは右翼のダイモンドのところかと思いましたが、意外でしたね」
と、ザイーダが言うと、サビーが
「いや、あれは弓兵を預かるサイとノサウスの差だろう」
と、こたえる。
あれ? それこそ意外だな。
サビーよりザイーダの方がそういった用兵に関する目はあるのかと思っていた。
「どういうことだよ?」
と、不思議がるガーブラにサビーが答えるには
「ノサウスはチカマック配下で武官筆頭を務めていた男だ。対してサイは一介の騎士。用兵に関してはノサウスに
なるほどね。
本陣からでは実際の細かい用兵手腕は判りかねるけど、事実として左翼は白兵戦に持ち込まれ、右翼はまだ持ち堪えている。
結果を見ればサビーのいうことは間違っていないのかもしれない。
「お館様」
そんな戦況分析をしているところにキャラが入ってきた。
「キキョウからの報告です」
と、飛行手紙を渡された。
読むと、森の中を進軍中の敵奇襲部隊を発見した知らせだ。
でかした!
読みは当たっていたな。
兵数四、五百。
進軍速度から推測して奇襲は明日、日の傾き出した頃になるのではないかという見立てだ。
うちの
カイジョーは五日目には攻められると言っていたが……。
「お館様」
ザイーダが声をかけてくる。
「やはり背後をつく奇襲部隊がいたようだ。チャールズ」
「はい」
「カイジョー隊に随行させた魔法部隊に連絡をとってくれ。現状を知りたい」
「すぐにでも」
返事を終えると移動電話の元へ移動する。
「キャラ」
「はい」
「コチョウの方からは連絡はないのか?」
「来ておりません」
発見した敵部隊の兵数と敵軍総数を考えれば、左右二手に分かれて奇襲するほどの兵数ないだろう。
あったらやだな。
けど、有能な諜報員を無為に森の中に放っておくのももったいない。
「キキョウには引き続き奇襲部隊の監視を指示し、コチョウたちは呼び戻せ」
「かしこまりました」
「サビー、ガーブラ。明日未明、本陣よりそれぞれ兵七十を率いて奇襲部隊に奇襲をかけてもらう」
「待ってました!」
「腕が鳴りますな」
敵部隊四、五百に対して奇襲とはいえ合して百四十で向かわせるのは少々無茶とは思うけど、こっちには手榴弾もあるしなんとかなるでしょ。
「襲撃のタイミングはこちらから指示を出す。功を焦るなよ」
「畏まって候」
時々ガーブラって前世持ちなんじゃないかと疑いたくなるんだよな。
言動が。
「あー、森の中では長柄の槍は不利になるぞ」
「重々承知」
ガーブラの言い回しよ。
「お館様」
「チャールズ、繋がったか?」
「はい。何事もなければ、本日日暮れまでに敵陣の裏に出られる見込みだそうです」
天運、我に味方せり。
「では、夜に改めて明日の作戦を伝えると言ってくれ」
「判りました」
「ザイーダ」
「は」
「本陣に残る兵六十の指揮権を委ねる」
「お館様はいかがなさるおつもりで?」
「明日は正面で暴れる予定だ」
堂々と宣言すると、リリムが心配そうに僕の正面に浮かぶ。
(匹夫の勇ってやつじゃないの? 大丈夫?)
(リスクはあるけど、大事な時に前線に立たない将に兵はついてこない。兵の士気を上げるためにも、作戦の成功率を上げるためにも必要なことだから、決して匹夫の勇じゃない)
……はず。
「この戦、明日をもって終わらせるぞ」
(まだ、今日の戦闘が終わっていないけどね)
そうでした。