第232話 野戦に持ち込むための仕掛け

文字数 2,543文字

「ラビティア」

「はい」

「ホーク、メゴロマ、ノサウス、ギラン、ジャミルト、エギューにラバナルをつけて一軍の将を任せる。兵数六百」

「ありがたき幸せ」

 ギラン、ジャミルト、エギューは反お館派グループの武将だ。
 余談だけど、反お館派には四派閥あった。
 最過激派の僕を暗殺してズラカルト男爵に復権してもらおうと考えていた一派は、暗殺未遂事件の際に一掃して壊滅させた。
 男爵の支配から僕の支配に代わった際に平民出の僕を追い落として実権を握ろうと画策していた貴族一派は、実力主義の役人採用で篩い落とされて没落した。
 性急に改革を推し進める僕に反感を持っていた「昔はよかった」系年寄りグループは、今でも気に入らないことはあるのだろうけど、改革が進んで生活水準が向上したことで黙らせた。
 そして、弱冠十五歳で僕が村長やっていたのが気に入らなかったギランたちは、対抗できる規模じゃなくなったからか、僕の臣下として出世する方向に路線変更したようだ。

「カイジョー」

「はっ」

「カシオペア隊、電撃隊、フィーバー隊に兵六百をつける」

「傭兵上がりに一軍の大将を仰せつけるか。この栄誉に見合う戦果を上げて見せましょう」

「残ったイラード、チカマック、ガーブラ、ザイーダ、ウータ、それにチャールズは本陣武将として私に従うように」

 これで主だった将は割り振ったはずだ。
 ちなみにルダーには輜重隊を差配してもらっている。
 三軍に滞りなく配給するのは大変かも知れないけれど、ルダーなら難なくこなしてくれるはずだ。
 今回は占領先の行政を任せる人員も事前に用意している。

「春の戦は少々時間をかけ過ぎた。今回は早期に決着をつける。よいか、十日だ。十日でこのヒロガリー区を制圧する。遠く離れた地で兵に里心がつき、士気が下がる前に一気にヒロガリー区を切り取るぞ」

「お任せあれ」

 一夜明け、兵の休息日に当てている今日明日を使ってイラードとウータに兵の割り振りを任せる。
 僕の軍には女性志願兵がいて、全体の一割強を占めている。
 前世知識の先進国並みと言っていい。
 僕が最奥の山村の村長をしている頃、村人全員が武器を手に持たなければ村を守れなかった頃の名残みたいなもので、今はさすがに徴兵はしていないけれど、支配地域が小さく人口の少ない僕の領内では「戦える」「戦いたい」という人間を性別で弾くことはしない。
 むしろありがたく戦力として数えることにしている。
 今後支配地域が拡がっても女性兵は有効な戦力として重用するつもりだ。
 しかし、前回の遠征で性被害などの問題が出たと言うので今回は慎重に部隊編成を行なっている。
 僕個人としては、女性だけの部隊編成というのは問題の先送りなんじゃないかという気もするのだけれど、暫定措置として今回は採用している。
 この世界の文明水準などを考えれば、女性部隊と見て襲ってくる敵兵というのもいそうだし、そういうのは相当ヤバイ相手だと思うんだ。
 けど、頼るべき味方に襲われるのはそれ以上の恐怖かも知れないしなぁ。
 そんな不埒な奴らは極々一部だと信じたいのだけど、悩ましい問題だ。
 兵士の教育と遠征環境の充実か……丸投げしたいところだけど、この世界の倫理観じゃ「問題なし」の範疇かも知れないんだよねぇ。
 そうなると「なにをどう対策するんですか?」ならまだしも「なにか問題でも?」とか真顔で訊ねられかねないよね。
 参るなぁ。
 悩ましい問題はとりあえず置いといて、再編された三軍が進発する。
 僕の軍の先鋒はガーブラ。
 ガーブラと相性のいいチローを補佐に歩兵ばかり百二十を与えて一日先行させている。
 目指すリゼルドの町には推定百八十人規模の軍勢がいるのでガーブラ隊だけではかなり不利だ。
 町までは道程四日、途中に二つの村を挟む。
 本陣が最初の村に到着した時にはガーブラ隊は次の村に到着している頃合いだ。
 村を素通りした先で野営の準備をしていると、先行しているガーブラ隊に帯同させているオギンの部下から飛行手紙で予定通り村の手前に宿営したとの報告が届く。
 これでこの村と次の村の間に二つの軍が陣を構えたことになる。
 こちらの村からの急報はまぁ、万に一つもリゼルドには届かないだろう。
 向こうの村からはガーブラ隊が来たことを報されているに違いない。
 というか、用意周到に数年前からキャラが潜入させていた部下が町に向かって急報を届けに走っているらしい。
 さすが忍者部隊、密なやり取りで手抜かりはありませんな。
 あとは、リゼルド軍がガーブラ隊を蹴散らせると踏んで出撃するのを待ち、ガーブラ隊と交戦するタイミングを見計らって本陣を合流させれば野戦で奇襲作戦は成功する。
 ……はず。
 翌朝、陣を畳んでいるところに飛行手紙が届く。

「誰からだ?」

「リゼルドの町に放った忍びからです」

 オギンから手渡された手紙を読むとリゼルドは昨日のうちに軍に招集をかけ、夜の明けぬうちに出陣したこと。同じ報せをガーブラに送っていることが書かれていた。
 有能だ。
 やっぱり情報戦は自軍が圧倒的に有利のようだ。
 忍者部隊の人数が足りないせいで当面の攻略対象であるヒロガリー区以外に手が回らなくて、アシックサルの砦急襲でルビレルを失ったのがかえすがえすも残念でならない。

「オギン、伝令だ。イラードとザイーダに命じて兵三百をすぐさま出立させ、チカマックには陣畳みの指揮を任すと伝えろ」

 僕も鎧を着たらすぐさま出陣だ。
 鎧の準備ができた頃、ウータがくる。

「オギンに呼ばれて参りました」

 呼んだ覚えはないけれど……これは何の配慮なのか?
 さっと上から下までウータを見ると既に準備万端整っている。

「ウータ、出陣だ。近衛を任す」

「かしこまりました」

 ウータにひかれてやってきたホルスにまたがると、既に歩兵がザイーダに率いられて街道を見えなくなりそうだった。

「お館様」

 そこにイラードがホルスを寄せてくる。

「オギンから聞いているな?」

「はい。騎兵隊、いつでも出せます」

 指し示す先には軍の騎兵が全騎いそうだ。
 兵種指示の思い切りのよさはイラードによるものか、いっそ潔い。
 そしてこの短時間で準備が整うあたり、なかなかの練度だ。

「いざ!」

 と、拍車を掛けるとホルスが駆け出す。 
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