第126話 モンスター退治
文字数 2,386文字
「グラーズラは厄介じゃぞ。石の 弾丸 では至近距離でも歯がたたんじゃった」
やったことあるんだ、ラバナル。
「鉄の弾丸でもダメそう?」
「む? むー……急所にでも当てられればあるいは……いやしかし、それでもよほど接近せねば急所に当てられぬ」
「バヤルなら鈍 の剣でもそれなりに戦えますが、グラーズラを相手するなら相応の武器が必要ですぞ」
「まあ、ここにいる者の武器なら十分戦えると思いますが」
ここに残っているのは僕の配下でも指折りの戦士ばかりで、愛用の武器を持っている。
そういう意味でも僕の武器が一番劣っている。
まぁ、唯一の槍持ちでもあるからリーチだけは長いけど。
「どうします? まごまごしてると先手を取られるかも知れやせんぜ」
と、ヤッチシが指示を催促する。
確かにな。
こういう時はどうすればいいんだ?
たしかアイヌはヒグマを仕留める時、矢に毒 を塗っていたんだったよな。
毒、毒……いや、今回は荷車を襲う作戦だったから毒は用意していなかったはずだ。
でも、もしかしたら……と思って聞いてみると。
「持ってやすぜ」
と、ヤッチシがニヤリと笑って見せる。
さすが……でいいのか?
まあ、この際だ。
「矢に毒を塗ってそれを使おう。僕とルビレル、ルビンス、カレンが弓を、他は牽制と僕らを守ることに専念してくれ。無茶は厳禁だ」
ヤッチシからもらい受けた毒を矢に塗る。
全部で八本の毒矢ができたので、一人が二本持つことにした。
ヤッチシは、するすると木に登り出す。
「ヤッチシ」
僕は呼び止めて紙コップのようなものを放り投げる。
糸電話だ。
魔法の方じゃなく。
まさに糸電話である。
バロ村の櫓にぶら下がっているアレである。
直線でピンと張っていないとうまく聞こえないんだけど、原始的な通信装置としては結構役に立つ。
ラバナルには魔法の糸電話 の改良をせっついているんだけど、なかなかうまくいっていない。
問題は大きく二つ。
双方が魔力をコントロールできなければいけないことと、無線化できないことだ。
生活魔道具みたいに魔力をチャージする方法を試してみたのだけど、パワー不足で実用化には至っていない。
初号機はペギーレベルでも通話できるのに、難しいもんだねぇ。
話がそれた。
受話器を持ったラバナルを中心に、弓隊の四人が周囲を警戒、その周りを抜剣したバンバ、ガーブラ、ブンター、ノーシ、プローが囲む。
やがてラバナルの持つ受話器が二度、引かれる。
通信の合図だ。
「右前方から大きな生き物が接近してやす」
範囲が広いな。
こういう時前世だと「何時の方向」みたいな言い方があるんだけど……そうか、今度からそれを採用しよう。
報告に従って陣形を全方位型から移動する。
ラバナルを最後尾に弓組、剣組と三段構えをとる。
ピリピリとした緊張感に空気が張り詰める。
ガサガサと大きな葉擦れの音が近づいてくる。
弓組が弓を構えると葉擦れがとまる。
頭がいいのか野性の勘か、こちらの敵意を感じ取ったようだ。
いつまでも弓を引いてはいられない。
かといって、緩めた瞬間に飛び出されるのはごめん被りたい。
達人クラスならすぐさま引き絞って矢を射れるのかも知れないけど、僕には無理だ。
この中だとカレンならできるかもってくらいだろうか。
こういう時にこそシメイにいて欲しい。
「ルビレル、ルビンス、そのまま待機。カレンはいったん構えを解け」
僕は二交代で弓を引く判断をした。
これなら不意を打たれても対処できるはずだ。
引いては戻し、引いては戻すを三回くらい繰り返す。
弓の稽古の時は二十射くらいはするからまだ余裕はあるけど、神経的にも肉体的にもすり減るぞ。
「ラバナル。なにかないか?」
「なにかとはなんじゃ?」
「この膠着状態を打開する方法だよ」
「なんじゃ、ならこうじゃ」
さらさらと魔法陣を描くと手のひらに乗せたいくつもの鉄の弾丸をグラーズラがいると思われる方角へ向けて発射する。
散弾の要領だ。
威力は大したことはない。
当てずっぽうの威嚇攻撃はしかし、絶大な効果を発揮したようで、周囲をつんざくような咆哮を上げてグラーズラが立ち上がる。
ゆうに四シャルはありそうだ。
ルビンスがその巨体めがけて矢を射込む。
けど、距離の問題だったのか、胸の厚い毛皮に阻まれた。
四つん這いになったグラーズラがこちらに突進してくる。
「散開!」
ルビレルの指示で僕らは左右に展開する。
あれ?
指揮権は僕にあるんじゃないのか?
指示した当人はきりりと引き絞ったまま突進してくるグラーズラを待っている。
とにかく僕は弓を引いて狙いを定める。
それにしてもスゲー迫力だ。
なんていうか軽トラックが自分に向かって走ってくるくらい怖い。
しかも相当速いぞ。
これで急所を狙うのは難しい。
毒矢の威力を信頼してとにかく刺さってくれと願いながら胴をめがけて矢を射込む。
カレンも二矢目をつがえたルビンスも射ったので、左右から三本の矢がグラーズラに当たる。
僕の矢は後肢に。
カレンの矢はさすがだね、肩口に刺さった。
ルビンスの矢は背中に当たって跳ね返る。
……弓は不得手だったのか?
それでもグラーズラは止まらない。
まあ、そんなに即効性の高い毒はないよな。
ハッとルビレルを見るとまだ矢をつがえたままだ。
グラーズラがグングンとルビレルに迫る。
その距離が五シャルを切るかというタイミングでルビレルがひょうと矢を放つ。
狙い違わず眉間を射ったのを確認して飛び退くルビレル。
間一髪ですれ違い、走り去るグラーズラはそのまま大木に激突してどうと倒れた。
「やったのか?」
ピクリともしないグラーズラを眺めることしばし、ようやく意を決したという表情でガーブラが近づき剣で恐る恐る体をつつく。
「死んでます」
その宣言でヘナヘナと尻餅をついたのは仕方ないだろ。
やったことあるんだ、ラバナル。
「鉄の弾丸でもダメそう?」
「む? むー……急所にでも当てられればあるいは……いやしかし、それでもよほど接近せねば急所に当てられぬ」
「バヤルなら
「まあ、ここにいる者の武器なら十分戦えると思いますが」
ここに残っているのは僕の配下でも指折りの戦士ばかりで、愛用の武器を持っている。
そういう意味でも僕の武器が一番劣っている。
まぁ、唯一の槍持ちでもあるからリーチだけは長いけど。
「どうします? まごまごしてると先手を取られるかも知れやせんぜ」
と、ヤッチシが指示を催促する。
確かにな。
こういう時はどうすればいいんだ?
たしかアイヌはヒグマを仕留める時、矢に
毒、毒……いや、今回は荷車を襲う作戦だったから毒は用意していなかったはずだ。
でも、もしかしたら……と思って聞いてみると。
「持ってやすぜ」
と、ヤッチシがニヤリと笑って見せる。
さすが……でいいのか?
まあ、この際だ。
「矢に毒を塗ってそれを使おう。僕とルビレル、ルビンス、カレンが弓を、他は牽制と僕らを守ることに専念してくれ。無茶は厳禁だ」
ヤッチシからもらい受けた毒を矢に塗る。
全部で八本の毒矢ができたので、一人が二本持つことにした。
ヤッチシは、するすると木に登り出す。
「ヤッチシ」
僕は呼び止めて紙コップのようなものを放り投げる。
糸電話だ。
魔法の方じゃなく。
まさに糸電話である。
バロ村の櫓にぶら下がっているアレである。
直線でピンと張っていないとうまく聞こえないんだけど、原始的な通信装置としては結構役に立つ。
ラバナルには魔法の
問題は大きく二つ。
双方が魔力をコントロールできなければいけないことと、無線化できないことだ。
生活魔道具みたいに魔力をチャージする方法を試してみたのだけど、パワー不足で実用化には至っていない。
初号機はペギーレベルでも通話できるのに、難しいもんだねぇ。
話がそれた。
受話器を持ったラバナルを中心に、弓隊の四人が周囲を警戒、その周りを抜剣したバンバ、ガーブラ、ブンター、ノーシ、プローが囲む。
やがてラバナルの持つ受話器が二度、引かれる。
通信の合図だ。
「右前方から大きな生き物が接近してやす」
範囲が広いな。
こういう時前世だと「何時の方向」みたいな言い方があるんだけど……そうか、今度からそれを採用しよう。
報告に従って陣形を全方位型から移動する。
ラバナルを最後尾に弓組、剣組と三段構えをとる。
ピリピリとした緊張感に空気が張り詰める。
ガサガサと大きな葉擦れの音が近づいてくる。
弓組が弓を構えると葉擦れがとまる。
頭がいいのか野性の勘か、こちらの敵意を感じ取ったようだ。
いつまでも弓を引いてはいられない。
かといって、緩めた瞬間に飛び出されるのはごめん被りたい。
達人クラスならすぐさま引き絞って矢を射れるのかも知れないけど、僕には無理だ。
この中だとカレンならできるかもってくらいだろうか。
こういう時にこそシメイにいて欲しい。
「ルビレル、ルビンス、そのまま待機。カレンはいったん構えを解け」
僕は二交代で弓を引く判断をした。
これなら不意を打たれても対処できるはずだ。
引いては戻し、引いては戻すを三回くらい繰り返す。
弓の稽古の時は二十射くらいはするからまだ余裕はあるけど、神経的にも肉体的にもすり減るぞ。
「ラバナル。なにかないか?」
「なにかとはなんじゃ?」
「この膠着状態を打開する方法だよ」
「なんじゃ、ならこうじゃ」
さらさらと魔法陣を描くと手のひらに乗せたいくつもの鉄の弾丸をグラーズラがいると思われる方角へ向けて発射する。
散弾の要領だ。
威力は大したことはない。
当てずっぽうの威嚇攻撃はしかし、絶大な効果を発揮したようで、周囲をつんざくような咆哮を上げてグラーズラが立ち上がる。
ゆうに四シャルはありそうだ。
ルビンスがその巨体めがけて矢を射込む。
けど、距離の問題だったのか、胸の厚い毛皮に阻まれた。
四つん這いになったグラーズラがこちらに突進してくる。
「散開!」
ルビレルの指示で僕らは左右に展開する。
あれ?
指揮権は僕にあるんじゃないのか?
指示した当人はきりりと引き絞ったまま突進してくるグラーズラを待っている。
とにかく僕は弓を引いて狙いを定める。
それにしてもスゲー迫力だ。
なんていうか軽トラックが自分に向かって走ってくるくらい怖い。
しかも相当速いぞ。
これで急所を狙うのは難しい。
毒矢の威力を信頼してとにかく刺さってくれと願いながら胴をめがけて矢を射込む。
カレンも二矢目をつがえたルビンスも射ったので、左右から三本の矢がグラーズラに当たる。
僕の矢は後肢に。
カレンの矢はさすがだね、肩口に刺さった。
ルビンスの矢は背中に当たって跳ね返る。
……弓は不得手だったのか?
それでもグラーズラは止まらない。
まあ、そんなに即効性の高い毒はないよな。
ハッとルビレルを見るとまだ矢をつがえたままだ。
グラーズラがグングンとルビレルに迫る。
その距離が五シャルを切るかというタイミングでルビレルがひょうと矢を放つ。
狙い違わず眉間を射ったのを確認して飛び退くルビレル。
間一髪ですれ違い、走り去るグラーズラはそのまま大木に激突してどうと倒れた。
「やったのか?」
ピクリともしないグラーズラを眺めることしばし、ようやく意を決したという表情でガーブラが近づき剣で恐る恐る体をつつく。
「死んでます」
その宣言でヘナヘナと尻餅をついたのは仕方ないだろ。