第163話 大立ち回り?
文字数 2,220文字
「ヨォ、いい女連れてるじゃねぇか」
いや、お前そんなでも一応お貴族様なんじゃねーの?
「女、お前にワタシのカップに酒を注がせる栄誉を与えよう」
ようは酌をしろってか?
「出よう」
と僕がオギンに声をかけると、そのお貴族様
「さあさ女、男はワタシに遠慮して帰ってくれるらしいぞ。ホレ、今日は夜まで飲み明かそうぞ」
とか、どう思考したらそんな解釈ができるのかというビックリ理論で迫ってくる。
よく時代劇とかでお代官様だとか悪徳商人なんかが無体なことをする描写があるけど、この世界は貴族というだけでこんな態度ができるのか?
ノブレス・オブリージュの精神はどこいった?
地球世界から輸入されなかったのか?
これじゃ江戸の旗本 奴 じゃないか。
厄介だな。
こんなのがいっぱいいるんじゃ町の治安が心配だ。
「ほらほら、男。さっさと金を払って出ていけ」
…………。
お忍びで町をぶらついてた僕の素性を知らないのは仕方ないけどさ、これでもお前の主人だよ。
自覚ないかもしれないけど。
(身分バラしてやろうかしら)
(「余の顔を見忘れたか?」って?)
いやいや、そもそも知らんでしょ。
(じゃあ「この紋 所 が目に入らぬか!」って?)
(印籠なんて持ってないから)
ってか、リリムなんでそんなに日本の文化に詳しいの?
それはさておき、どうしたものかね。
そんな思案に暮れてると、オギンが芝居感バリバリで僕にしなだれかかってくる。
「お前さん、助けておくれよ」
「かげろうのお銀」バリのしなだれ具合だな。
えー、ここで大立ち回り演じろっての?
やだよ、これきっと今はギャラリーやってる連中も混ざってくんでしょ。
一人一人ならたぶん負ける気しないけど、一対多はよっぽど実力差ないとタコ殴りにされちゃうんだから。
だいたいオギンならそもそも適当にあしらえるんじゃないの?
ん?
そもそもオギンはここに入ればこうなるって予想がついてたんじゃないか?
だとすれば、なぜここに僕連れてきたんだ?
なにか意図があるに違いない。
とすると、オギンの思惑的に僕はどう立ち回ることを求められてるんだろう。
あー、とにかくここはあれだ、できる限り穏便に。
「お代はいくらだ?」
「二人で八銅貨 だよ」
高っ!
一日分の薪が五銅貨だろ?
てか、ただのお湯だよ?
日本と違うとはいえただのお湯にそんなに取んの?
それが商売といえばその通りなんで懐から銅貨を八枚取り出してテーブルに置く。
「ごちそうさま」
前世が小市民だとつい口に出しちゃうよね。
言いながらオギンの手を引いて店を出ようとする。
「おいおい、ワタシの話は聞いていたか? その女はワタシの酌をする栄誉に欲 したのだよ。その女は置いていけ」
いよいよ本性現したか。
周りの貴族もニヤニヤしてるし、なんだかなぁ……。
僕は無視してオギンの手を引いて店を出る。
酔っ払いの相手なんかしてやれるかってんだ。
店を出るとオギンが僕の手を引いて人混み物陰に隠れてしまう。
男たちが店を出てなにかわめきながらふらついているみたいだけど、オギンの手引きで隠れてるんだからまぁ見つかりっこないよね。
なんてホゥと一息ついた背後から
「こんなところでなにしてんです? お館様」
って声かけられる。
ドキーッとすんだろうが、あほチロー。
「よくあたいらのこと見つけられたね?」
「え? 隠れてたんですか?」
チロー、恐ろしい子。
「まあいいか、帰るぞ」
「男の情報はいいんですか?」
「報告は館に戻ってから聞く」
「そうですか……判りました」
「さて……」
館に腰を落ち着けて、改めてチローの話を聞くことにする。
この場にはチローとオギンの他に代官のルビレルにも同席してもらっている。
「まぁ、簡単に言ってしまえばアレですね、仕官の口を求めて探してる男でした」
ほぅ!
この世界にもそんな武芸者みたいな奴がいるんだ。
町中で怪しい行動に見えたのは、僕や町の評判でも聞いて回っていたからなんだな。
「ただ、あの男に関してはたいしたことはありませんね。仕官したいならせめて自分で使う拵 えくらい自分で用意できなきゃ農民兵と一緒でしょう」
手厳しい意見だけど、至極真っ当だ。
オグマリー区は領民皆兵で必要に応じて徴兵するので槍と胴鎧だけは支給される。
ただ、指揮官クラスは自前の武具防具を自分で用意している。
理由はたぶんそれぞれあるだろうけど、自分にあった武具防具を使うことで最大級のパフォーマンスが発揮できるというアドバンテージを持っている。
武官という階級は伊達じゃない。
「自前の武器も持たずに仕官しようなんて舐めてんじゃね?」って、チローは言いたいんだろう。
まあ、こんな辺境まで来るんだから色々事情があって手放してしまっている可能性もあるんだけど、身なりからいってそこまで切羽詰まった感じはなかったからチローの言う通りなんじゃないかな?
「判った。そういう輩が領内に入ってくると言うことを留意しておこう。今はとにかく人材不足だから、才能のある人材なら積極的に登用したいしな」
「部下にも言っておきましょう」
「チローの報告はそれでいいとして……オギン」
「はい」
「僕をあんなところへ連れて行った理由なんだが……」
「あんなところ?」
ルビレルが眉根を寄せる。
僕の視界に入っているんだから当然オギンにも見えているだろうに表情一つ崩さない。
恐れ入るよ。
「僕の推理が正しいか、答え合わせと行こうじゃないか」
いや、お前そんなでも一応お貴族様なんじゃねーの?
「女、お前にワタシのカップに酒を注がせる栄誉を与えよう」
ようは酌をしろってか?
「出よう」
と僕がオギンに声をかけると、そのお貴族様
「さあさ女、男はワタシに遠慮して帰ってくれるらしいぞ。ホレ、今日は夜まで飲み明かそうぞ」
とか、どう思考したらそんな解釈ができるのかというビックリ理論で迫ってくる。
よく時代劇とかでお代官様だとか悪徳商人なんかが無体なことをする描写があるけど、この世界は貴族というだけでこんな態度ができるのか?
ノブレス・オブリージュの精神はどこいった?
地球世界から輸入されなかったのか?
これじゃ江戸の
厄介だな。
こんなのがいっぱいいるんじゃ町の治安が心配だ。
「ほらほら、男。さっさと金を払って出ていけ」
…………。
お忍びで町をぶらついてた僕の素性を知らないのは仕方ないけどさ、これでもお前の主人だよ。
自覚ないかもしれないけど。
(身分バラしてやろうかしら)
(「余の顔を見忘れたか?」って?)
いやいや、そもそも知らんでしょ。
(じゃあ「この
(印籠なんて持ってないから)
ってか、リリムなんでそんなに日本の文化に詳しいの?
それはさておき、どうしたものかね。
そんな思案に暮れてると、オギンが芝居感バリバリで僕にしなだれかかってくる。
「お前さん、助けておくれよ」
「かげろうのお銀」バリのしなだれ具合だな。
えー、ここで大立ち回り演じろっての?
やだよ、これきっと今はギャラリーやってる連中も混ざってくんでしょ。
一人一人ならたぶん負ける気しないけど、一対多はよっぽど実力差ないとタコ殴りにされちゃうんだから。
だいたいオギンならそもそも適当にあしらえるんじゃないの?
ん?
そもそもオギンはここに入ればこうなるって予想がついてたんじゃないか?
だとすれば、なぜここに僕連れてきたんだ?
なにか意図があるに違いない。
とすると、オギンの思惑的に僕はどう立ち回ることを求められてるんだろう。
あー、とにかくここはあれだ、できる限り穏便に。
「お代はいくらだ?」
「二人で八
高っ!
一日分の薪が五銅貨だろ?
てか、ただのお湯だよ?
日本と違うとはいえただのお湯にそんなに取んの?
それが商売といえばその通りなんで懐から銅貨を八枚取り出してテーブルに置く。
「ごちそうさま」
前世が小市民だとつい口に出しちゃうよね。
言いながらオギンの手を引いて店を出ようとする。
「おいおい、ワタシの話は聞いていたか? その女はワタシの酌をする栄誉に
いよいよ本性現したか。
周りの貴族もニヤニヤしてるし、なんだかなぁ……。
僕は無視してオギンの手を引いて店を出る。
酔っ払いの相手なんかしてやれるかってんだ。
店を出るとオギンが僕の手を引いて人混み物陰に隠れてしまう。
男たちが店を出てなにかわめきながらふらついているみたいだけど、オギンの手引きで隠れてるんだからまぁ見つかりっこないよね。
なんてホゥと一息ついた背後から
「こんなところでなにしてんです? お館様」
って声かけられる。
ドキーッとすんだろうが、あほチロー。
「よくあたいらのこと見つけられたね?」
「え? 隠れてたんですか?」
チロー、恐ろしい子。
「まあいいか、帰るぞ」
「男の情報はいいんですか?」
「報告は館に戻ってから聞く」
「そうですか……判りました」
「さて……」
館に腰を落ち着けて、改めてチローの話を聞くことにする。
この場にはチローとオギンの他に代官のルビレルにも同席してもらっている。
「まぁ、簡単に言ってしまえばアレですね、仕官の口を求めて探してる男でした」
ほぅ!
この世界にもそんな武芸者みたいな奴がいるんだ。
町中で怪しい行動に見えたのは、僕や町の評判でも聞いて回っていたからなんだな。
「ただ、あの男に関してはたいしたことはありませんね。仕官したいならせめて自分で使う
手厳しい意見だけど、至極真っ当だ。
オグマリー区は領民皆兵で必要に応じて徴兵するので槍と胴鎧だけは支給される。
ただ、指揮官クラスは自前の武具防具を自分で用意している。
理由はたぶんそれぞれあるだろうけど、自分にあった武具防具を使うことで最大級のパフォーマンスが発揮できるというアドバンテージを持っている。
武官という階級は伊達じゃない。
「自前の武器も持たずに仕官しようなんて舐めてんじゃね?」って、チローは言いたいんだろう。
まあ、こんな辺境まで来るんだから色々事情があって手放してしまっている可能性もあるんだけど、身なりからいってそこまで切羽詰まった感じはなかったからチローの言う通りなんじゃないかな?
「判った。そういう輩が領内に入ってくると言うことを留意しておこう。今はとにかく人材不足だから、才能のある人材なら積極的に登用したいしな」
「部下にも言っておきましょう」
「チローの報告はそれでいいとして……オギン」
「はい」
「僕をあんなところへ連れて行った理由なんだが……」
「あんなところ?」
ルビレルが眉根を寄せる。
僕の視界に入っているんだから当然オギンにも見えているだろうに表情一つ崩さない。
恐れ入るよ。
「僕の推理が正しいか、答え合わせと行こうじゃないか」