第400話 アナザー 護と要 その13

文字数 831文字

 二人の会話をよそに、高森要は亜空間の風景を見て驚いていた。
 昨日、陰陽師の葛城裕也に連れてこられた場所によく似ていたからだ。

 岩石が転がるむき出しの岩肌。所々で噴き出す間欠泉。
 赤や黄色に染まった沸騰した池。
 足元を覆いつくす砂利までも何もかもがそっくりだった。

「高森君、君が平行世界からきたというのは本当かい?」
「はい、本当です」
 唐突に正人に問われて要は返事をかえした。

「あの、一ノ谷さんは葛城裕也っていう陰陽師をご存じなんですか?」
「え、ああ、弟子だ」

 え、弟子?弟子って
「一ノ谷さんは、陰陽師なんですか?」
「違う。私は退魔師だが……。君は裕也君を知っているのか?」

「昨日、ここで会いました」
「ここで?」正人は驚愕した。
「君はここで彼に会ったって言うのか?」

 葛城裕也は正人の使う「亜空間に渡る術」を一度だけ見ている。
 裕也はそのたった一度見ただけの術を使いこなしたというのか。

 またか。結界に続いて二つ目だ。
 裕也は教わるより先にいとも簡単に術を体得していく。
 まるで生き急ぐかのように。

「君はここで彼と何を」
「一ノ谷君。言い忘れてましたが」
「なんだ。義之」

「葛城一族は今、跡目争いの真っ最中らしいですよ」
「……なんだって?跡目争いの真っ最中?」
「ちょっと違いますね。クーデターが起きたと言った方が正しいのかな」

「クーデター……」
「彼は反対派から、命をねらわれているようですね。
 昨日、丸締ランドで起きた事件。知ってるでしょう?」

「ああ、喫茶店のガラスが全損したっていうアレか」
「ええ、あれはそのバトルの名残らしいです」

 裕也が性急に術を吸収していく理由が見えた。

 彼は退魔師になりたいわけでも正人に心酔したわけでもない。
 一宮の中で当主という確固たる地位を盤石にするために正人に弟子入りを志願したのだと。

 食うか。喰われるか。
 葛城裕也は実力を示して自分が跡目を継いだ正当性を主張するか。
 早々と今の地位を辞して、おのが身を守る必要があったのだ。
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