第144話 桜花恋歌 その3

文字数 811文字

一晩中眠れなかった俺は明け方になってベッドで微睡(まどろ)んでしまったらしい。
部屋のドアの入り口に立つ姉の罵声で目が覚めた。

ドンドンドンと壁をたたく音とともに姉が言う。
「かなめ!いい加減起きなさいよ。
 あんたの大事な先輩が迎えに来たわよ」

 その言葉を聞いて一瞬で目覚め、俺は頬を紅潮させた。
「ねーちゃんのばかぁ!なんで早く起こしてくれなかったんだよ」

自分はちゃっかり、先に起きて身支度をし学校にいく準備をしていたらしい。
「あらぁ、起こしましたわよ。一時間前に。起きなかったあなたが悪いのよ。
 じゃ、戸締りよろしくね。私、もう、先に学校いくから」
それだけ言うと玄関まで行って
トントンと靴を履き何やら先輩と話をしている。

「いつもありがとうございます。バカな弟がお世話になります。」
などと言いながらがちゃりと扉が閉まる音。
「いいえ、馬鹿だなんてそんなことありません。一緒にいて楽しいです」
持ち前の人当たりのよさで受け答えする先輩。

バカとはなんだ。ばかとは。
ねーちゃんのイケズ。
人の事「馬鹿」呼ばわりしやがって。

角田先輩は、俺が超人クラブに入ってから毎朝、迎えに来るようになった。
寝ぼけた頭でどうにかこうにか身支度し、大急ぎで玄関に向かう俺。
当然、朝食を食べる暇なんかない。

「おはようございます」
靴を履きながら先輩に挨拶する。
「おはよ。高森。朝食は?」
「いいです。食欲ないし」

食欲ないのは本当だった。あんな夢を見た後だ。

「何か食べた方がいい」
先輩はそう言うと自分のスクールバッグからカロリーメイトを取り出して俺に差し出した。

「ありがとうございます。でもほんとにいいです。お腹すいてないから」

そういいながら玄関に鍵をかけて先輩を見る。
俺が初めて先輩にあった頃よりずいぶんと髪全体が伸びている。

あれだけ制服には気を使うくせに前髪は切りもしない。
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