第117話 先生のフィアンセ その39

文字数 834文字

藤堂弘明は酒豪である。
そして、酒乱だ。

そのことを踏まえて頭の中で弘明の酔っ払い度メーターを一つ一つ冷静に確認してみる。

1.女性に対してどもらなくなる。
2.饒舌(じょうぜつ)になる。つまりよくしゃべる。
3.眼が座り上機嫌になる。

……今、レベルは3なわけだ。
じゃあ、次は4、そろそろアレがでてくるのか?恐怖のあれが……。

菊留義之は自分の服装を確認した。
新調したばかりのアルマーニ。最高級のブランドスーツ。

ああっ、安物の着古した物を着てくればよかったとつくづく自分の不幸を嘆いていると、一番ボックスの中央で右手にブランデーを持ち、左手を義之の肩に回した藤堂は「がはは」と笑いながらのたまった。

「なんだか、楽しくなってきた!よしっ、キクトメ、あれやるぞ、あれ!」
「えっ、アレってアレですか?いや、今日は勘弁してほしいんですけど」
やっぱり、そう来たかと(おのの)きながら一応抵抗を試みる。

「そうか。まぁ、なんだ、お前は今日は主賓だからな。やらなくていい。だが、俺はやる!」

藤堂はそう宣言すると、おもむろに立ち上がって上着を脱ぎ捨て中央の通路にうつ伏せ匍匐(ほふく)前進をはじめた。軍隊に所属した事もないのになぜ、匍匐前進なのか未だにわけがわからない。
今日はあっさり解放されたが、過去、何度もこの匍匐前進につきあわされ数多(あまた)のスーツがダメになっていった事か。

ため息をついて、反対隣りに眼を転じるとひかりは隣に座っていた美咲と一緒に藤堂を指さしケタケタと笑い転げている。
調子に乗った藤堂はスクワットをはじめ、最後にうさぎ跳びをしてホールを一周するとそれぞれのボックスからおざなり程度の拍手をウケ席に戻ってきた。

いつもの定番コース。筋肉を鍛えるのが趣味な藤堂の真骨頂だ。
うさぎ跳びをやる確かな足取り。
足取りだけ見ているとこの飲兵衛(のんべえ)に酔いというものがあるのか。
いつも疑問に思う義之だった。
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