第289話 アナザー 二人の高森 その97

文字数 753文字

 正人の足元にスマホを落とし数歩離れた。
 スマホのそばにぼんやりと人体が出現した。
 次第に形がはっきりしていく。

 いつもながらに凄いと思った。
 菊留義之に結界など意味をなさないのだ。
 彼は携帯の電波を頼りに思ったところに瞬間移動する事ができる。

「困った人ですね。一ノ谷君、貴方が私を呼ぶときはいつも修羅場だ」
「当たり前だ。でなきゃ呼んだりしない」

 毎回同じ受け答えだ。
 まわりの鏡面結界をみて義之は捕り物の最中だったらしい事を理解した。

「で、敵は?」と尋ねた。
「上だ。窮奇と女郎蜘蛛」

 正人に言われて義之は上を見上げた。
 巣にはりつけにされた桂木裕也と中央に陣取る女の姿をしたクモの化身。
 その背後に数匹のイタチの姿が見える。
 女は不意に現れた義之に驚いていたが、彼が弱そうに見えたらしかった。

「おやおや、助っ人かしら。彼、随分とやせっぽちでたよりなさそう。
 私が強さを測ってあげるわ」

 言い終わらぬうちにヒュンヒュンと音が鳴りたくさんの鎌鼬(かまいたち)が義之と正人に襲いかかった。

 義之は自身のオーラで自分と正人を包むドーム型の防護壁(バリアー)を張った。
 ふたりに風の刃が届く前に鎌鼬は跳ね返され消失した。

「相変わらずすごい」
 正人のつぶやきに義之はむすっとしたまま答える。

「私は君みたいに手加減して、妖を瓶に閉じ込める事などできませんよ」
「かまわない。コレは生かしても害にしかならん。頼む。裕也を助けてくれ」
「……この建物もぶっ壊れるかもしれません」
「どうせ、取り壊しが決まっている」
「そうですか。わかりました。裕也君、目を閉じて」

 義之は天井の裕也に声をかけた。
 これから先は子供が見るべきじゃない。そう思った。
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