第91話 先生のフィアンセ その15

文字数 370文字

「どうしました?仁。何か気になる事でも」
「いや、別に。あのさぁ、ちょっと離れて歩いてくれると嬉しいんだけど」
「どうしてですか」
「どうしてって」
「ああ」

彼はぐるりと周りを見渡し鷹揚に笑った。
「別にいいじゃありませんか。気にしなければいいんです」
彼も精神感応者だ。仁と同じ感じ方をしているはずだ。
だが、その彼は仁とは違って強靭な精神力を身に付けているらしい。

学校に来る途中、同じ方向に歩く生徒に。
「ハロー」とか「モーニン」とか気さくに声をかけている。

あー、はい、はい。俺ってメンタル弱すぎだよね。
気にしなければいいんだ。気にしなければ。

仁は仁でそれなりに目立つ存在ではある。
それを自覚してない彼にも相応の責任はあった。

だが切れ長な目元に一片の憂いを滲ませて禁欲的で仄暗い魅力を周りにまき散らしながら
歩いている事を彼自身は欠片も感じていなかった。
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