第390話 アナザー 要と護 その3

文字数 653文字

 俺は肌触りのよい木綿の浴衣を着ている。
 一体、いつ、着替えたんだ。覚えがない。

 見た事ある天井の木目。ヒノキの香り。床にかけられた達磨大師の掛け軸。
 そうだ。ここは先輩の家の離れだ。土曜日にお昼ご飯を頂いた場所。

「角田先輩、俺、先輩に何か失礼な事をしたんじゃ!」
「えっ?ああ、したかな」
 先輩はいたずらっ子みたいな顔で笑った。
「抱き枕にされた。高森の体は凍えてたから寒くて寒くて死ぬかと思ったよ」

 だっだっ、だきまくらぁ~?他にも、俺、何かとんでもない事をしたんじゃないのか?
 ああっ……。
「……すみません。責任取ります!」
 俺は布団の上で速攻、土下座した。

「責任って?」
「いや、あの」
 言わんとしている意味がわかったのか先輩はくすっと笑った後。

「高森はひたすら眠ってたよ。何もないから安心しろ!」
 と答えてくれた。

「第一、高森、どうやって責任取るつもりなんだ」
 からかわれて俺は口ごもった。

 先輩は男だ。いくら美しい容姿でも責任なんかとれるはずない。

「そう言えばそうですね」
 俺が照れ気味にそう言うと先輩は嬉しそうに笑った。
「寝てたって俺、どのくらい寝てたんですか?」
 思い出した。
 葛城裕也という陰陽師に生命エネルギーを抜かれて。
 死ぬほど体が辛くなって。いや、その前から辛かったけど。

「回復するのに丸一日かかった。今日はもう日曜のお昼だ」
「えっ、じゃあ、俺、先輩んちに泊まったって事ですか」
「そうだ。家には連絡しておいたから心配ない」
「……ありがとうございます」

 今日の先輩はよく笑う。
 不思議だ。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み