第269話 アナザー 二人の高森 その77

文字数 883文字

 窓ごしに部屋の中を覗き込むと、カーテンが半開きになったその個室には誰も居ない。
 マットもしかれてない空っぽのベッドが一つあるきりだ。
 だが、光の帯は確かにこの部屋から伸びていた。

 結界を解いて要をベランダに降ろし、先生は口元に二本指をたてて呪を唱えた。
「天地開闢の理によりて、我は命ず。高森 要の体のありかを示せ。解!」
 窓越しに投げ入れた呪いの波動が部屋全体に広がっていく。

 呪を放った指先の景色は一変した。
 ベッドに横たわり点滴をうけている高森 要。
 側には点滴の落ちぐわいを確かめ、何やらカルテに眼を通している看護師がいる。
 看護師が部屋から出て行ったのを確かめてから先生は言った。

「さぁ、高森くん」
 超能力は生命エネルギーを変換させて使っているにすぎない。
 そのエネルギーを放出しっぱなしの今の状態は要にとって最悪といえた。。
 一刻も早く彼のオーラを抑え込む必要がある。
 その(からだ)は薄皮1枚隔てた向こうの空間に存在していた。
「はやく、行きなさい」
 促されて要は頷きテラス戸の中に一歩足を踏み入れた。
 なんなく通り抜ける。
 彼は後ろをちらりと振り返ったが
 ガラスの向こうに広がる世界に還って行った。

 安心した先生はそれを見届けてから空間を封印しベランダにへたり込んだ。
 疲労がピークに達している。
 もう一歩も動けない。

 幸い今年度は担任にならなかった。
 本日、1時限めと2時限目に授業を担当するクラスもない。
 当然こんなに疲れ果てていては講義などできるはずもない。
 幸運に感謝した。

 ほんの少しベランダで休んでから先生は直接、カウンセリングルームにテレポートし部屋につくなり(くずお)れて床に倒れこんだ。

 しばらく動く事ができず目を閉じてじっとしていた。
 今の自分の姿を人に見られるわけにはいかない。
 誰かに見られたら、救急車を呼ばれ、学校中大騒ぎになるだろう。

 かちりとロックのかかる音がした。
 最後の能力(ちから)を使って先生は部屋にロックをかけた。

 意識が遠のいてゆく。
 幾つもの能力を同時に使ったため、とっくに自分の限界を超えている。
 先生にはしばしの休息が必要だった。
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