第295話 アナザー 二人の高森 その103

文字数 826文字

「いい加減、裕也(かれ)君から離れてあげた方がいい」
 義之の声が凄みを帯びた。

「よけいなお世話だよ」
 口調の変わった裕也は不敵な笑みを浮かべて義之に言葉を返した。
「僕はこの体を気にいっている。大丈夫だよ。時々、(ゆうや)に体を返してあげてる」

「悠斗君。今のままでは君を祓らわざるを得ない」
 裕也はそばにあった事務机の上にカバンとケーキの箱を置くと義之の眼をまともに睨み返した。
「ひどいな……ぼくを祓うの?菊留さん」

 目の前に(もや)が発生した。
 それはみるみるうちに人の姿に変貌していく。
 気が付けば裕也の前に彼を幼くしたような10歳くらいの子供が立っていた。
 裕也はがくりと膝をついて床につくばった。

 義之は咄嗟(とっさ)に彼を支えたが間に合わなかった。
 そんな裕也の様子を気にするでもなく悠斗は平然と言葉を続けた。。

「ほらね。言ったでしょう?こんなふうにね。体を返してあげてるって」
 悠斗はクスクスと笑った。
 義之は悠斗に厳しい眼を向けた。

「君はいつから裕也君に憑依(ひょうい)しているんですか」
「2か月くらいかな?楽しいよ。ぼくも裕也と一緒に学園生活を楽しんでる」
「二か月、そんなに……君にはわからないのですか」
「なにが」
「裕也君の体が悲鳴を上げている。このまま憑依しつづければ彼の体はもたない」
「いいじゃない。彼もぼくみたいに死んじゃえばいい」
「どうしてそんな無慈悲な事がいえるんです」
「無慈悲だって?」
 悠斗は眼をしばたいた。

「ぼくはあんなに怖い思いをしたのに」
「ええ」
「ぼくは女郎蜘蛛の化身に捕らわれ体を裂かれて内臓を喰われたんだ」
「……知っています」
「ぼくは死にたくなかったのに、ぼくによく似た裕也は生きて青春を謳歌(おうか)してる」
「悠斗君」

 悠斗の涼し気な声が残酷な響きを帯びて部屋に満ちた。
「不公平だよ。菊留さん、不公平は正さなきゃ」
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