第230話 アナザー 二人の高森 その38

文字数 552文字

「ものは言いようだな。つまんない色だと思ってたけど、そう言われると綺麗かもって思えてくる」

瞳は言われた通り琥珀色に輝いている。
基本、詩心を持つ先輩の言葉だ。オレの心を掌握するのは造作もなかった。
オレはさもおかしそうにクスッと笑うと高らかに宣言した。

「よっし、わかった。面白そうじゃん。あんたたちの言う通りなりきってやるぜ。
 こっちの高森要って奴に」

 時間つぶしにファッション誌を読んでいた佐藤先輩が、雑誌をそばのローテーブルに置いて言った。

「うーん……なり切るねぇ……」

しばらくして先輩二人がハモった。
「無理だな」
「無理ですね」

「まず言葉遣いが違う。高森は「じゃん」「やるぜ」「あんたら」なんて言い方はしない」
「はああーっ、なり切れっていったのはあんたらだろ」

「確かに言ったけど、根本的に違いがありすぎて……どうしていいかわからない」
「あきらめろ角田。所詮、器がちがう……いや、違うのは魂か」

イヤ、俺、ここにいますけど。すぐそばにいるんですけど。
オレの後ろにたって一緒に先輩二人のやりとりを聞いていたけど側にいる事に
気がついてもらえないもどかしさは如何ともしがたく俺はため息をついた。

所詮、今の俺は幽霊みたいなもの。気が付く方がおかしいに決まってる。
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