第329話 アナザー 護の笑えない理由 その13

文字数 872文字

佐藤先輩の声が低くなった。

「お前も出来るんだろ、テレパシー」

「……え。そんな能力ありませんよ」
「うそつけ、お前さぁ、使える能力を隠してるよね」
「俺の超能力(ちから)って、あの、俺、隠してないですけど」

「お前の能力は平行時空に飛ぶ事」
「そうです。俺の力はそれだけです」

「でも先生が言うには、他に使える超能力(ちから)があるんじゃないかって言ってた。
 菊留先生はお前の力量を知りたがっている」
「意味がわかりません」

「手合わせしてみればわかるさ」
「て、手合わせって」

「というわけで日曜、俺とバトルしようぜ」
「えっ、バトルですか?」
「そう、超能力で」

「超能力って……あの、俺、病あがりなんですけど」
「うん。知ってる。安心しろよ。先生立ち合いの元でやるから」

 超能力で手合わせって……鬼かよ。
 佐藤先輩の能力ってオールマイティだ。
 対する俺にサイキックな力は全くない。
 俺と佐藤先輩の手合わせって。大人と赤子だ。
 先輩の超能力なら俺を病院送りにするなんて赤子の手をひねるより簡単だろう。

 向こうの菊留先生ならこんな提案絶対しない。(そう信じたい)
 この世界って先生立ち合いならなんでもありなのか?

 俺はつくづく自分の身の不運を嘆いた。
 よりによってこんな平行時空に飛ばされるとは。

「では、明後日、10時にお前んちに行く。逃げるなよ。高森」
「わかりましたよ。やればいいんでしょう。お付き合いしますよ。佐藤先輩」

 俺は投げやりな気分で返事をかえした。
 携帯を切った後。

 一つの疑問がわいた。
 向こうの先生なら自分から動いて直に言ってくる。
 なのに、こちらの先生は伝言は泉経由でくるし。
 七日間の入院の間に俺の病室に一度も姿をあらわさなかった。

 そして、今回の手合わせの話だ。
 先生を信用していいのか?
 先生はほんとに俺を向こうの世界に返す気があるのだろうか。

 菊留先生はなぜ突然そんな事を言い出したんだろう。
 俺には先生の考えが全くわからなかった。
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