第148話 桜花恋歌 その7

文字数 651文字

「高森、封印なんて、なぜ、そう思ったのか理由をきかせろよ」

「……夢を見たんです」
「夢?」
「古木の枝垂れ桜の前で角田先輩がいなくなる夢」
「……そうか。それで角田(あいつ)にその話したの?」
「はい」
「角田、笑ってただろ」
「そうですよ。一笑に付されてしまって」

真剣に言えば言うほど滑稽(こっけい)な話だ。
だがこの話を聞いた先生と佐藤仁の顔はちっとも笑ってなかった。

「だろうな」
「俺、先輩と話してるうちに気づいたんです」
「何を」
「消えるのは先輩じゃなくて俺じゃないかって」
「なるほど。お前の能力なら消えるのは高森(おまえ)ってことになるよな」

正確には平行時空(パラレルワールド)に飛んだ時点で向こうの俺と入れ替わる。
だから、この世界にも俺はいることになる。
だが記憶は共有してないから、不都合が起きる。今は学生だからまだいい。
しかし、成人してお互いの職業が違ったり、未婚、既婚の差がでてくれば、パニックになって通常生活すら、ままならなくなるだろう。

「俺、もう、この能力に振り回されたくありません」
銀行員の菊留先生に出会った時のあのショック。きっと誰にもわからないに違いない。

「君の気持はよくわかりました。能力を封印したいのであれば、やり方を考えましょう」
そう言って先生は微笑した。
「お願いします」

「ところで高森君」
改まった先生の口調
「その夢の話、もう少し詳しく話してくれませんか」
そう言われて俺はのろのろと身を起こし先生と向き合った。
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