第122話 俺は先輩のワンコじゃない。 中編

文字数 865文字

佐藤先輩も去年は、護信者のあらぬ妄想の餌食になっていたらしい。
だったら、俺が今年の餌食になるのはやむ無しなのか。
いやいやいや、違うから。俺、そんな趣味ないし。

「でっ、何が不満なの?」
「だから、こういう写真は」
「無理だろ。だって、お前、同じ部活だろ。帰る方向一緒だし塾まで同じじゃん」

塾は家庭教師に切り替えると言った母親を説き伏せ拝み倒して先輩が居残ったからなのだが。
そもそも、塾に居残った理由さえよくわからない。
「まあ、角田と一緒にいるときは我慢しろよ。宿命だと思ってさ」
佐藤先輩の言葉が言い終わらぬうちにガラッと扉の開く音がした。

「あっ、ここにいたんだ。高森、部活に行こう。部活」
「角田先輩」
「何ですか?」
「見て下さいよ。この写真」
「え、ああ」
先輩は写真を数枚見て、手に取り破り捨てた。

「気にしなくていい。あんなもの」
「だって、気になるし」
「そんなの気にしていたら身が持たないでしょう」
納得いきすぎる説明だ。
「そりゃ、そうですけど」
先輩はそれだけ言うと俺の手を引いて部室に連行しようとする。
「あっ、佐藤先輩は?」
「あっ?俺・三年だから引退だよ」
ひらひらと手を振る佐藤先輩を横目で見ながらカウンセリングルームを後にする。
階段踊り場までくると前を行く先輩の前に有名な三年の腐女子軍団五人組が立ちはだかった。

「角田護君」
「なんでしょうか?先輩方」
一応、礼儀を通す角田先輩。
丁寧に答えはしたものの、その声がこわばっている。
「角田君とその子。どういう関係なの?」
「ああ、その事ですか」
幾分先輩の表情が和らいだ。
「僕にとって彼は後輩であり、そうですね。ワンコのようなものです」

えええーっつ!
何ィーーーー!
ワンコだとー!
俺が声にならない抗議をしていると先輩はにこっと笑ってさらに続けた。

「本当にかわいいです。ペットじゃないんですけど、
 全然支配もしていないし、むしろ自由なんですけど」

それって超有名アスリートが言ってた言葉丸パクリじゃないですか。
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