第406話 アナザー 先生の異変 その5

文字数 706文字

 どこをどう歩いてきたのか覚えていない。
 探偵事務所を後にした高森要(おれ)は気が付けば佐藤先輩の家の前まで来ていた。
 先輩の家は庭付き一戸建てだが、とうぜん角田先輩の屋敷のような馬鹿でかさはない。
 ごくごく普通の家のサイズだ。

 門扉をあけて家の前に立ち、呼び鈴をならした。
 がちゃっと扉をあけて顏を出したのは佐藤先輩だった。

「あ、高森、……動けるようになったのか。よかったな」
「あ、はい」
「俺なりに心配したんだぞ」
「ありがとうございます」
「それにしても、お前よくトラブルに巻き込まれるよな」
 心底呆れたように先輩は言った。

「俺、好きで巻き込まれてません」
 少しむくれて答える俺。
「そりゃ、そうだけどな。ん。どうした。浮かない顔して」

 俺はしばらく返事をしなかった。
 昨日、今日と色んな事がありすぎて。
 ああっ、いっそのこと俺の心を読んでくれ。
 佐藤先輩ならそれが可能だろう?

 普段は頼まれなくても勝手に人の心を読んでくるくせに。
 先輩は俺の心を読まずに次の言葉をまっている。
 仕方なく口を開いた。


「佐藤先輩。聞いてください。俺、菊留先生に殺されかけました」
 重大発表でもするかのように声を大にして言ったのに先輩ときたら。

「うん。それで」
 と平然と言葉を返してきた。
「それでって、そこ驚くところじゃないですか」
「……ああ、そうだな」
「なんで、そんなに平然と」

「うん」
「だーかーらぁ、俺、先生に……殺されそうになったんですけど」

 佐藤先輩は俺をじっとみつめた。
 妙に落ち着いている。
 一重で切れ長の双眸で探るように俺を見て。
 しばらくして先輩は。

「……なるほどな。まぁ、あがれよ」
 そう言って俺を家の中に招き入れてくれた。
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