第70話 先生(リサーチャーフェイバリット)の実力 その5

文字数 941文字

 菊留先生は自分のアパートからダイレクトで佐藤仁の暮らす戸建ての住宅に飛んだ。
ゲートを抜けると玄関前のエントランス部分に教科書が散乱し、いつも仁が持ち歩いているナップザックが放り投げてあった。
大破した携帯の破片がアプローチライトに照らされて鈍く光っている。
家全体は暗く室内のライトが一つもついてない所をみると家人はまだ、誰一人帰っていないようだった。

仁は帰宅と同時に襲われたと見るのが妥当だろう。
自分の見通しの甘さを悔いた。そのせいで仁が攫われたのだ。
先生はその場に座り込んで意識を集中させ仁の行動を追跡(トレース)しようとした。
湖に石を投げこむイメージで自分を中心に意識の波紋を広げていく。
その距離半径5キロメートル、自分のレーダーに彼の生体エネルギーは引っかからない。

先生はため息をついた。
仁が超能力者(サイキック)であることは敵に知られている。
対ESP拘束具で自由の効かない状態にされているのは充分考えられる事だ。
単に直径10キロの間に仁がいないのか。
生体エネルギーが分からない状態されているのか。
判別が出来ない。

諦めて、今度はアレンの生体エネルギーを探った。
こちらはいとも簡単に引っかかった。
自分に似た波動だから探るのは容易たやすい。
南西に4.8キロ付近。秋津第三埠頭方面。
菊留先生は足早に仁の家から出て、大通りのネットカフェに向かった。
佐藤仁の家は駅の繁華街の近い所にある。
人目がありすぎて、そうそうテレポートで気楽に移動するわけに行かない。
ネットカフェに入り、自分のボックスに座るとすぐさまグーグルマップで秋津第三埠頭の検索を始めた。

アレンのいる場所が、陸ではなく海ではないかと予想したのだ。
検知した所に重なる場所を探して徐々に地図を拡大していくと
入り江の近くにある小島の位置と合致した。
小島とは言っても結構な広さがある。地図で確認すると島の北端に柵で囲われた敷地があり、内に7つの建物が存在しているのが判る。
島の南に天然の池があり、島全体は瓢箪(ひょうたん)のような形をしている。

先生は粗方の情報を掴むとそうそうにネットカフェを出て手近な路地へ入った。
人ひとり通り抜けられるかどうかの狭い所まで行ってかき消すように姿が見えなくなった。

秋津第三埠頭の近くにある小島で爆音が響いたのはそれから10分後の事だった。
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