第33話

文字数 946文字

「おばさま、異常です!どうしてそんな発想になるんですか?
 先輩の意思が全くないじゃないですか」
「お黙んなさい!貴女に指図される覚えはありません」
「黙りません!私は」

部屋の中で言い争う二人の声がひと際大きくなった。

ガチャリと扉が開く。
車いすを押す俺、椅子の上の角田先輩、傍らに立つ菊留先生。

「先輩」「母上」「護ちゃん」

泉、先輩、おばさんの3人の声がほぼ同時に部屋に響く。

「あらっ、良かった。元気そうじゃない
 護、さぁ、こんな所、長居は無用、家で寝てれば治るわよね。さっさと帰りましょう」

「何言ってるんですか、先輩はここに運ばれた時、瀕死だったんです。
 帰るなんて論外です!!」

登紀子は泉の声を無視して車いすに駆け寄り座っている先輩を無理やり立たせようとする。
登紀子に掴まれた手がもろに傷に障ったのか。先輩の眉根にしわが寄る。
そして先輩は菊留先生のあの言葉を口の中で小さく反芻していた。

1.ことわっていい権利
2.答えなくていい権利
3.自分で選択していい権利
4.途中で考えを変えてもいい権利
5.嘘をついてもいい権利
6.悲しみを表現していい権利
7.離れてもいい権利 

「パシッ」と拒絶の音が部屋中に響いた。
 先輩が思いっきり母親の手を叩きはらった音だ。
角田登紀子の顔に朱が上る。般若の形相だった。

「どういうつもりなの、私に逆らうなんて。許さないわよ。護」
「母上」
「貴方は私のいう事を素直に聞いていればいいのよ」
「母上」語気が強くなった。
「少しは僕のいう事も聞いて下さい」
「護ちゃん」

「僕は性転換手術を受ける気はないし、ホルモン注射を打つ気もありません」

俺と先生は顔を見合わせて絶句した。
角田登紀子が亡くなった姉の代わりを先輩に求めていたのは知っている。
だが、ここまで斜め上な発想しているとは思ってなかったのだ。

もし、俺が自分の親から「ニューハーフ」になれと言われたら
めちゃくちゃ反抗して、母親を「くそばばあ」呼ばわりし家出してたに違いない。

「心配しなくても大丈夫よ、今からでも充分、女性らしくなるわよ。
 もともと貴方、女顔だしね」

呆れた。話が全くかみ合ってない。論議したいのはそこじゃない。
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