第110話 先生のフィアンセ その34

文字数 714文字

ベッドに腰かけて携帯をサイドテーブルの上に置くと「おはよう。先生」という声とともにからりと引き戸が開いた。

「おはよう。アレン。起こしてしまいましたか」
隣の部屋のソファベッドに寝ていたアレンが顔を出した。

「うん。なんだか目がさめて」
「まだ、朝の五時だからもう少し寝ていてもいいですよ。一時間後に起こしますから」

「………先生、ごめんなさい。僕のせいで」
「さっきの会話聞いてたんですか?」
「はい」
「君は気にしなくていいんですよ」

自分のせいで先生は婚約破棄されている。
気にするなと言われても納得できるはずがない。泣きそうな顏で先生を見る。

「朝ご飯何にしましょうか。確か、冷凍ピザがあったから。それでいいですか?」
「………」
「飲み物はミルクティーとか」
「………」
「アレン」
「………」
「そんな顔をしないでください」

うつむいたアレンの目じりに涙が浮かんでいる。

「まるで私がいじめてるみたいじゃないですか?」

アレンは小さな子供みたいにこくりと頷いた。指先で涙を拭って無理やり微笑もうとする。

「無理に笑わなくていいんです。大丈夫、きっと大団円(ハッピーエンド)になりますよ」
「……どうして、そんな事言えるんですか?」
「私の予知は外れた事がないんです」
先生の言うサイドエフェクトが根拠らしい。

今日、ひかりに会ったら前世から順を追ってすべてを話そうと思っている。

彼女はなんと言うだろうか。きっと笑って許してくれるにちがいない。
そんな人としての器の大きさを好きになった。
だから、ハッピーエンドになると確信を抱いている。
周りほどには自分の行く末を心配していない義之だった。
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