第129話 泉と先生との出会い その6

文字数 788文字

カタタン、カタタン、
カタタン、カタタン、

規則的な電車の音。

泉はうっすらと目をあけた。
自分のすぐそばに座って車窓を眺めていた人物が
気が付いて心配そうに覗き込んでくる。
銀縁フレームごしに注がれるやさしい眼差し。
………?……!‥‥‥!!

ん。今何時?
思わずぱっちりと目が開いた。

がばっと起き上がる。
ええっ?、電車の中?そうか。私、貧血起こして。

「目が覚めた。よかったぁ~。大丈夫ですか?」
「だっ、大丈夫です。あの、掛谷っていう駅は?」
「ああっ、過ぎましたよ。だいぶ前に」
「そうですか」
「私も降りそびれました」
「ごっ、ごめんなさい。私のせいで」

謝ったタイミングで彼の携帯が鳴ったらしい。
ガサゴソとカバンから取り出して返事をしている。

「はい、菊留です。あっ、ひかりさん?ごめん。降りそびれた。
 はい。今日は会えません。埋め合わせきっとするから。じゃあ」

携帯を切って顔を上げた彼。

「すみません。迷惑かけちゃって。出来ることはなんでも」
「そうですね。ならデートすっぽかしたんで、埋め合わせにお昼付き合って下さい」
人の好い笑みを浮かべて菊留さんが言う。
「えっつ?」
言われた事の意外性に思わず不審な眼で彼を見てしまった。
「その制服、君は松田一中の生徒だね。
 別に妖しい人じゃないですよ。私は私立開成南高の先生をしています」

変な人すぎる。
普通、怒るでしょ?私のせいでデートすっぽかしちゃたんでしょ。
怒ってよ。その方が気が楽なのに、お昼付き合えなんて……。
とっても変。でも……この人、いい人だ。
ほっとけなくて、私が起きるまでずっと電車の中にいてくれたんだ。

「わかりました。お昼つきあいます」
「よかった。次の駅によく行く料理店があるんです。そこへ」
「おまかせします」
かくして、次の駅で降りることになった。
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