第137話 泉と先生との出会い その14

文字数 951文字

「それなのに、それなのに!」
「開成東を受けちゃったわけね」
 智花はやれやれと言わんばかりの口調で言った。

「そーなんですよ。中三の時の担任の口車に載せられて」
泉は拳を握って、さも無念そうな顔をする。
しかし、最終的に東を受験したのは自分であり自業自得と言えば自業自得だ。

「うーん。良い話だなぁ~」
仁は冗談とも本気ともつかぬ口調で的はづれな相槌(あいづち)をうつ。

「佐藤先輩!何がいいんですか?」
泉はキッとなって仁を睨みつけた。

「いやぁ、充分いい話だったよ。な、智花」
「佐藤君……」
相槌のタイミングが悪い。
「バカにしてる。絶対ばかにしてるでしょう」
先輩に向かってぷりぷりと怒っている泉の傍らで、アレンは呟いた。

「本当に何っていうか……とうさんらしいです」
「えっ、とうさん、あっ、そうか。菊留先生はアレンにはお父さんだよね」
「はい。僕も義父(ちち)に救われました」

感慨(かんがい)深そうにアレンは言う。

「なんか先生って。おせっかいなのよねー」
おせっかいと言いながらも泉の口調は限りなく暖かった。
だって、そのおせっかいのおかげで泉は救われたのだ。

「はい」
「でも、それが菊留先生の魅力だよ」
「……そうですね」
「アレンとは何かと話が合いそうな気がする」

泉は握手を求めてアレンに右手を差し出した。
驚いて顏を上げるアレン。
「改めてよろしく。Mr・アレン・菊留・ホワイト」
「こちらこそ。どうぞよろしく、泉加奈子さん」

ふたり、微笑み合って握手を交わした。
その姿はまるで旧知の親友の様だ。

「あれあれ、もしかして俺ら邪魔だったりする?」
「そーですよ。これから親睦を深めますから佐藤先輩は帰っていいですよ」
「いずみ、冷たいなー」
「人の事さんざんおちょくってくれた罰です。冷たくもなりますよ」

今日アレンが超人クラブのメンバーと会った事は先生には内緒だ。
先生はアレンに超能力を使ってほしくないと思っている。
本来、超能力は余分な力だ。人生を丁寧に生きていくためには不要な力。

だから、開成東に転校させたのも実の所、そんな理由だったりする。
しかし、アレンは逆にその世界に身を置きたいと思っている。
思惑のすれ違うふたりだった。
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