第208話 アナザー 二人の高森 その16 

文字数 496文字

ファミレスの店員に「ご注文がお決まりになりましたらベルでお呼び下さい」
と言われたにも拘かかわらず、メンバー全員誰もメニュー注文をしていなかった。
店を出るときはドリンクバーを頼んだ先生だけがレジに並んだ。

「お店の人、嫌そうな顔してたな」
「うん、私達の方、ずっとチラチラ見てた」
「わかってるんなら頼めばよかったんですよ」

清算を済ませた先生はそう言うと先に立って店を出る。残りのメンバーも後ろに続いた。

日差しがきつい。生暖かい空気が肌に(まとわ)りついて、さっきまでいたファミレスの涼しさを恋しく思ってしまう。

すかさず泉は自分のスクバから折りたたみ傘を出すとすぐに広げて天空にかざした。

「あっ、いいなぁ、加奈ちゃん入れて」
智花はそう言ってちゃっかり加奈子の傘の中に入った。

駅に向かい電車に乗って一駅移動し改札を抜けてから、10分も歩いただろうか。
買い物をしたスーパーを通りすぎ高森要の言う空き地を目指して歩いていると一際、蝉の声が大きくなった。

立ち止まった要は眼を疑った。
見慣れたビル群の陰から姿を現した空き地は鬱蒼(うっそう)とした森と化していた。
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