第251話 アナザー 二人の高森 その59

文字数 861文字

「違う!オレは羨ましくなんかない」
「何がちがうんですか」
「ただ、コイツの日記読むとイライラするんだよ」

 平々凡々なコイツの日記はつまらないはずの毎日が、幸せそうで、楽しそうで。
 出来ない事は人が助けてくれるし、皆笑って許してくれる。

「なんだか、もやもやする」

 毎日が感謝の言葉で溢れてる。

 どのページを読んでも嬉しい、楽しい、ありがとうの言葉でいっぱいで。
 詩を読んでるみたいに優しさに溢れて。

 ……なんで、いつもそういう風に考えられるんだ。
 学生生活なんてオレとコイツで大差ないだろうに。

 いったい何がちがうんだ。

 オレの日記は世の中の不満で満たされていて……。
 きもい、うざい、死ねとかネガティブな言葉で一杯だ。
 コイツとは何もかもが正反対。

「君は死ねやうざいより、もっと綺麗な言葉を使いたいと思っているでしょう?」
「……そんな事思ってない……」

 オレは人に頼った事はなかった。
 なんでも自分でやってきた。そうしなきゃならなかった。
 人を蹴落とすのも平気だった。悪口を言って貶めることだって。

「でも、君自身、悪口も人を貶めるのも嫌だと思ってるでしょう?」
「……思ってない。平気だ……」

 オレははっと顏を上げて先生を見た。
「なんで……オレの考えがわかるんだ」
 オレは一言も口に出して言ってない。

「アナザーな高森君。クラブの名は伊達ではありませんよ」
「クラブの名前……?」

 オレは眼の前の四人を見た。
 クラブっていったいなんのクラブだ。
 なぜ、あのファミレスに集まったメンバーはオレの事を知っていたんだ。
 そもそも彼らとは出会いからして変だった。

 土曜の朝。
 鬼守の森の祠の近くで演劇の台本を読んで発声練習をしてから、劇団の稽古場に出向く途中、泉加奈子という女の子に出会った。彼女はオレを見てとても驚いていた。

「高森君、その髪、どうしたの?」
 オレの髪は三日前に金髪に染めたばかり、目もブルーのカラーコンタクトに変えていた。
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