第385話 アナザー 邂逅 その32

文字数 622文字

『何、知り合いなの?』
 智花は突っ込みたかったが、菊留先生の声にかき消されて裕也には聞こえていなかった。
 菊留先生は黒ぶち眼鏡のブリッジを中指で押し上げ、声に怒りを滲ませて言った。

「佐藤君、電話、いつになったら出てくれるんですか」
「あっ」

 そういえばリュックの中の携帯をマナーモードにしている。
 鳴っていることに全く気がついていなかった。
 携帯があれば、例え相手が電話口にでなくても勝手に瞬間移動してくる先生の得意技。

 先生は仁に電話をかけ続けた結果。
 出ない事に業をにやし自分の家から文字通り飛んできたのだ。

「全く、君たちは派手にやらかしましたね」
 先生の声音は明らかに怒気を含んでいる。

「派手ってなんですか」
「この遊園地の喫茶店の窓ガラス壊したのは君達でしょう」
 決めつけが酷い。

「せんせ、ちげーし。俺ら、巻き込まれただけだし」
「テロじゃないかってテレビのニュースで大騒ぎになってますよ」
「そうなんですか。お騒がせしてすみません」

 間髪を入れずに裕也が謝った。
 先生はこの時、初めて仁のそばでマジメに謝る葛城 裕也に気が付いた。
 超人クラブのメンバーしか目に入ってなかったらしい。

「やぁ、裕也君。君も一緒だとは思わなかった。……こちらの方は?」
 言いながら先生は裕也の側に立っている響に眼をやった。

「ああ、どうも、裕也がお世話になります。俺は従兄弟(いとこ)の桜井 響です」
 説明が面倒と思ったのか従兄弟と偽り、愛想笑いを浮かべ、響は優雅に会釈した。
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