第64話 先生(リサーチャーフェイバリット)の実力 その1

文字数 1,166文字

菊留義之は外階段を上がって自分の借りているアパートまで帰ってきて妙な違和感に襲われた。
明らかに誰かに監視されている。

確信を持ってそう言える視線のようなものを感じた。もう完璧に夜である。
あたりは真っ黒で街灯の明かりがなければ到底人影など判別できない状態である。
仁との約束の時間にはまだ早い一時間前の事だ。
彼は指にはまったすべての指輪を外して違和感の根源を探ろうとした。
その時、足元の階段で火花がさく裂した。
とっさに手すりを乗り越え階下の駐車場に降り立つ。
眼の端に捉えた人影は六人。そいつらが一斉になぐりかかってくる。

「手加減は必要ないようですね」そう呟くといきなり高く飛んだ。
自ら持つ脚力に超能力を加えた異常ともいえる高さだった。
目標を見失った刺客達は勢い余ってお互いを殴り合っていた。
人数が半減した所でストンと下に降り立つと、手近な奴に殴りかかり
三度こぶしを叩きこんで気絶させ、そいつの頭の中の情報を探る。
幾多の情報の中に「Professor」というキイワードを拾って彼の顔色は微かに苦みを帯びた。

考える間もなく別な空間からこぶしが飛んできて、それを片手で受け止め相手を蹴り返す。
普段の穏やかな国語教師の彼とは全く違った側面が浮かび上がった。

「なるほど、各個撃破ですか。兵法の基本ですね。」
誰に聞かせるわけでもなくそう呟くと正面からつかみかかってくる輩に頭突きをかまし、みぞおちに一発蹴りを入れ背後から襲ってきた賊に廻し蹴りを食らわせダメージを与える。
おやじ狩りの時の大人しさは微塵もない。
襲ってきた賊がすべて地面に倒れ伏した時、彼は更なる行動に出た。

数メーター先にいて賊を指揮し、成り行きを見守っていた男の所に
瞬時に移動し片手で男ののど元を抑えそのまま壁に叩きつけた。
確実に相手を仕留めるときの彼のやり方だったが男を殺す気など毛頭なかった。

「言え!お前たちのボスは誰だ。どこの組織に属している」
彼の冷酷さを象徴するような冷たい声で言い放った。
本当にこれが温厚でいつも本を手放さない菊留先生だろうか。
信じられないことに先生の外見すらいつもと違って見えた。
そのフォルムはプラチナブロンドで長身の外人のように見える。

metamorphose(メタモルフォーズ)
先生は自身の体格さえ、自分の意思で変化させることができた。
アレンを再生させた組織は今の彼ではなく、かつての「研究者のお気に入りの自分」を欲しているのだと理解した。

なら、前世の自分の姿を投影して相手にアプローチするのが一番効果的に威嚇する事が出来るだろうと判断したのだ.

しかし、手下を使っていたくらいだから、おそらくは幹部クラスだろうこの男は、この程度の脅しで口を割るような玉ではなかった。
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