第294話 アナザー 二人の高森 その102

文字数 600文字

 静まり返った探偵事務所にノックの音が響いた。
 義之は立ち上がって扉を開けると桂木裕也がそこに立っていた。

「裕也君。どうしたんだい?」
「あっ、あの、先生は?」
「応接室の方にいるけど」
「僕、先生と仲直りがしたくて、その」
 スクールバッグを肩にかけ制服姿の彼は右手にケーキの箱を下げていた。

「一ノ谷君。だそうですよ」
 義之はわざと大きな声で応接室の方に声をかけた。
 返事はなかった。
「どうぞ。入ればいい。君のお兄さんに一言いってやってください」
 その言葉を聞いた裕也は眼を見開かせた。

「……何言ってるんですか。お兄さんって」
「私にはわかっていますよ。一ノ谷悠斗君」

「あの?僕の名前は桂木裕也です。悠斗って誰の事ですか」
「……君のお兄さんは退魔師とは思えない。君にはものすごく鈍感です」

 義之の言葉に反応してくぐもった声で彼は言った。
「ちがう。僕は」
「いいや、違わない。悠斗君、私が間違えるとでも思ってるんですか」

「……」
 一瞬黙った彼はフフッと笑って言った。
「全く、かなわないな。さすがは菊留さんだよね」
「ええ」
「いつからわかってたの?」
「最初から」
「そんな前から?」
「はい」

「聡いのも考え物だよ。菊留さん。命縮める事になる」

 ゆらりと裕也の体から金色のオーラが立ち登った。
 可視化されたオーラはまるで炎の様に全身をつつんでいる。
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