第19話

文字数 703文字

「あーっ、お腹すいた」

集会のあった駅まで帰ってきてようやく泉が口をひらいた。

「あのさ、泉って、毎回救急キットもってるの?」
「持ってない。緊急集会限定」

「ふーん、手際いいな」
「だって、いつも皆、傷だらけになるもの」

「緊急集会っていつもこんなことやってんの?」
「……いつもじゃないけど」

泉が医者を目指す理由がなんとなくわかる。

「泉って角田先輩の事、好きなの?」
「うーん、好きとかじゃなくてほっとけない感じ」

泉は一つ咳払いをして胸を張って宣言した。

「だって先輩は私と一緒にいないと早死をする」

俺は噴出した。

「何、それ、有名漫画のセリフ丸パクリじゃん」

「高森君、一年前の先輩を知らないから、泉好みにプロデュースしてようやく今の先輩がいるの」

プロデュース?それって一体どういう

「だって、先輩って黙ってれば、ただの美形で通るのに・、口を開けば毒舌家で、人生投げてる風な目つきは最悪だし、死ねって命令されたら素直に死んじゃう本当に残念な人だったんだから」

「泉、人を欠陥商品みたいに言うな」

随分ないわれ様に抗議する先輩。

「わかる、わかる、角田君はキック・アスだよね、いい意味でも悪い意味でも」
「智花先輩、 英語苦手じゃなかったんですか」

「英語は苦手よ、でも菊留先生の厳命じゃ、勉強せざる負えないの」
「卒業がかかってるから仕方なくね」

横から佐藤先輩が突っ込みを入れる。

「ほんとに良かった。皆でこんな会話が出来る様になったんですね。
 一年前には考えられませんでした。教師冥利につきます」

思うところがあるのか、菊留先生までそんな事をいう。
みんなの屈託なく笑う声を聴きながら、ほんとは皆なにか一癖あるんだろうと、なんとなく察した。

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