第59話 謎の留学生 その1

文字数 1,214文字

菊留義之はその日の教職員会議で配られた一生徒のデーターファイルを見てため息をついた。

ファイルに貼られたスナップ写真。
その写真は間違いなく前世の自分の姿に瓜二つだった。
銀に近い薄い金髪とバイオレットアイズを持ち、西洋人独特の深い彫りの顔立ち。
身長もゆうに170センチは超えている。名前はアレン・ホワイト。

 世界には自分に似た人が三人いるとは言うが、とっくに死んだ過去世の自分にそっくりな人間がこの世にいるとは、ただただ驚くほかはない。
明らかに自分とは別人の彼は一体どんな魂を内包してこの世に生をうけたのだろうか。
興味をそそられる対象ではある。

その彼が開成南に交換留学生としてやってくるという。
所属するのは隣の1年4組英語教師の坂田貴俊先生のクラス。
夏休みが開けた9月1日、本日が生徒初顔合わせとなる全校集会だった。

体育館の壇上で校長先生に紹介された彼は、実に流暢(りゅうちょう)な日本語で
自己紹介をし全校生徒から拍手喝采を浴びていた。

授業の合間と昼休憩は一年四組を訪れる見物人が後を絶たず、彼は一日中好奇な眼に晒されていた。
なれない日本語で丸一日過ごすことは、彼に取って神経を削る大変な事だっただろう。
その日一日、通常授業を受けて、ようやっと放課後になった。

「佐藤、お前に客、例の留学生だぜ」
同級生に小さめの声で囁かれて、帰り支度をしていた仁は顔をあげて教室の入り口を見た。
なぜ、自分が呼ばれたのか解らず、仁は考え深げにずり落ちた眼鏡を中指で直してよくよく彼を眺めた。
頭一つ分高い彼は数人の生徒に囲まれ、流暢な日本語で器用に質問を受け答えしている。
立ち上がってゆっくり歩を進め、彼の前に立った。

「君が、仁・佐藤?」気が付いた彼が言う。
「Yes, it's me」
日本語で質問されたにも拘わらずとっさに英語で答える。
「やっと、みつけた。A friend of the heart(心の友よ)」

彼はそういうと仁の眼鏡をはずしてグイッと抱き寄せ耳元で囁いた。

「You're the psychic.(超能力者)でしょう?僕と勝負しましょう」
彼の言動に驚いて、仁は肩と腰に回された手を払いのけてその場を飛びのいた。

腐女子のグループから黄色い悲鳴が上がる。
ざわめく男性陣の見物人からは非難の声が飛んでくる。

「何やってんだよ、佐藤、ハグなんて西欧(あっち)じゃあたりまえだろ?」
「……あっ、悪い、慣れてないんだ。」
「No problem.(問題ない)気にしないで」
「眼鏡、返してもらえるかな」
「どうぞ」

眼鏡を受け取り顔にかける。
改めて握手を求めて右手を差し出す。
彼と握手をし平静を装って見せるが、内心、穏やかではなかった。
自分に囁かれた言葉は余りに小さく周りには聞こえなかったのか?
彼は確かに「超能力者」だと声に出して言った。
心音が大きくなり、どきどきと耳鳴りがする。
教室に担任の姿を探したが見当たらない。
担任はとっくの昔に教室から消え失せていた。
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