第32話

文字数 1,403文字

大人になっていくプロセスとして、反抗期というのがある。
角田姉弟にはそれがなかったのではないだろうか?

子供は親が大好きだ。
それが例えどんな親であったとしても。

でも、自分が成長して、大人になってきたときに、そのまま親のことが好きだったとしたら、親から自立できない。

親と離れるのが辛すぎる。
親と離れることができないのだからいつまでも親の保護の元にいることになってしまう。

だから、大好きな親を嫌い、親から離れることで、自立していこうとするのだ。
好きなままで離れるのは、辛いから、親のことを否定したり、反抗したりして嫌う努力をしている。

しかし反抗ができるということは親に愛されているという絶対的な自信があるという事だ。
ところが中には、反抗期もなく成長する人がいる。
良い例は、親が「子離れ」という形で、上手に自分から距離をとっていった場合だ。

子供がわざわざ反抗して、親と距離をとる必要がなくなる。
なかなかこれは難しいことだが上手にやってのける親ももちろんいる。

問題になるのは、子供が反抗できない状態にあるとき。
もしも、親自身が辛くて苦しい生き方をしていたとしたら、親のことが大好きな子供は「僕が(私が)反抗して、親を 嫌ってしまったらもっと不幸になるだろう」と思ってしまう。そうすると、反抗すらできなくなってしまう。

でも、角田姉弟の場合それとは違う。
自分が出来なかった事を子供の人生でやり直そうとする母親。

話を聞かない、認めない、求め過ぎる…とにかく、子どものすべてを否定する。
やることなすことが気に食わない。言動や行動に対して後でダメだしするから、何に対しても怒ることができる。自分の不快に感じる気持ちに従って、感情ストレスを発散させていく。子どもは自分の気持ち・感情を押し殺し、親の全てを受け止めるための良い子でなくてはいけないという義務感(責任感)で窮屈な幼少期を送ることになってしまったのだ。

「角田君、君には生まれながらに七つの権利があります。今回はそれを行使すべきでしょう」

「七つの権利?」

俺が先輩の乗る車いすを押して階下の応接室に移動中、菊留先生は角田先輩に教師らしい説教を始めた。

「それは自分の心を守る7つの権利

1.ことわっていい権利。
2.答えなくていい権利
3.自分で選択していい権利
4.途中で考えを変えてもいい権利
5.嘘をついてもいい権利
6.悲しみを表現していい権利
7.離れてもいい権利 
 です。君たちはいい子すぎるんですよ。」

「……。」

「お姉さんに頼るより、自分で自分の進むべき道を勝ちとらないと先の未来はありません」
「先生、私は」

「形を保つのが難しいでしょう。私の能力は一時的なものでしかない。
 一旦、呪をときます。後で改めて」
「はい、お願いします」

先生が小さく「解」と呟くと先輩のそばを歩いていた角田夢見は先輩の影の中へ解ける様にしていなくなった。

先生がなぜ、この病院の応接室を知っているのかわからない。
先輩の二度の入院で前に来たことがあったのかも知れなかった。
応接室は完全防音だと思っていたが、そうでもないらしい。

ヒステリックな角田登紀子の声が扉の外に響いている。
防戦一方の泉の声も負けていなかった。

正念場だ。
菊留先生は強めにドアをノックし応接室の扉を開けた。
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