第72話 先生(リサーチャーフェイバリット)の実力 その7

文字数 1,316文字

建物の中に侵入し、階段を二三段跳びで駆け上がる。
行く手を阻む敵を片手で払いのけ、通常の人間にはついてこれないスピードで走り最上階のボスがいる部屋へと先生は急いだ。

ホールのエレベーターで上がってきた敵と鉢合わせし機関銃で撃たれたが、
すべてシールドで跳ね返した。痛がって床に転がる者数名。

敵は拳銃が全く用をなさない事を理解していないようだった。
エレベーターの真正面に大きくて壮麗な観音開きの扉があった。
透かし彫りの入った唐草模様のレリーフに二匹の竜が絡み合う構図。
壮麗でありながら、趣味の悪さを露呈した配色。
いかにも暴力団のボスの根城に相応しい。

躊躇することなく、扉を押して中に入ると、入り口に数名の部下がいて、
行く手を阻む。先生は柔道の基本の組み手で左方の敵に、
足払いをかけ、頭上から殴りかかってくる奴に背負い投げを決め
右方から蹴りを入れてきた奴を蹴り返し、周りに立っている者が居なくなってからようやく、正面の安楽椅子に座っている人物に焦点をあてた。

ボスは菊留先生に一瞥をくれることなく、左の壁一面に埋め込まれたモニターを凝視している。
その画面には黒煙を上げて炎上する建物をバックに、さしたる武器も持たず衝撃派でさらにビルを粉々に破壊する先生の姿が映し出されていた。

所有している建造物が多数破壊されたにも拘わらず、慌てる様子もなくモニターを見ながら感想を述べる。

「これは、驚いた。エスパーなんて眉唾だと思っていたが本当にいるとはね。
 実力は一個大隊なみと聞いていたが聞きしに勝るものだ。」
そういうとようやく先生の方に顏を向ける。

「お褒めに預かり光栄です。並川修会長。 
 誠道会は2014年をもって解散されたのでは無かったのですか。」
 先生はネットの知識を持って余裕の笑みで答えた。

「表向きはいくらでも、教師ともあろう者が警察向けの似非情報を簡単に信じるとはな。」

「他に知るすべがございませんでしたので、……私の事をグローム教授からお聞きになったのなら話ははやい。超能力者を権力闘争に使おうなどという馬鹿な考えはお捨てになった方が賢明です。それから私の生徒を大人しく返していただきたいのですが。」

「それは出来ぬ相談であろう。教授がなんというかな」

先生はその言葉を聞いてパチンと指をならした。同時に空中に人の顔くらいの大きさの火球が出現した。ぱちぱちと爆ぜる炎。頬に熱いくらいの熱を感じるから幻影でないのは理解できる。

「……私にとっては、この部屋を火の海にすることも。貴方の心臓を握りつぶすことも、とても簡単な事です。そして、日本の警察にはその犯罪を立証する術はない。」

言葉をつなぐ先生の表情は暗澹とした不気味さを湛えている。

「痴れ者が、脅しにかかるか」
怒気を含んだボスの声色に反応して数人の部下が襲いかかろうと身構えた。
その行動を察知しながらも、先生は涼しい声で言い放つ。

「真実を申し上げたまで。フェアでないのはお互い様でしょう。
 では、教授の所までご同行願いましょうか。」

一瞬、会長は歯噛みしたが、目線で部下を制し椅子から立ち上がった。
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