第379話 アナザー 邂逅 その27

文字数 815文字

 理解できた。
 声の主は彼だ。

 無理やり俺の能力を引き出して俺をこの世界に引っ張ってきたのは彼だ。
 早鐘の様に脈打つ心臓。絶え間ない頭痛。
 駄々洩れになっているオーラに翻弄されて俺は今にも気を失いそうだった。

「そうか、つらいんだね、高森 要。君はまだ自分じゃコントロールできないんだ」

 彼はふふっと笑って俺を見た。
 もうろうとする意識を無理やり現実に押しとどめた。
 苦痛を失くしたくて半開きだった瞳を閉じた。
 しかし、そんなもので頭痛は消えてくれない。
 彼の近くに行けば行くほど頭痛が増してゆくのだ。

 ならば近づかなければいい。分かってはいる。
 わかっているのに俺の足は、俺の意思とは関係なく彼に向かって歩いていた。

 二人の距離が残り50㎝ほどになった時、裕也はハンカチのまかれた右手を差し出した。
 俺は震えながら彼の手をとった。

 手が触れた瞬間、お互いの体を覆っていた炎が混ざり合って薄い紫色に変化した。

「苦し……い。たすけ…て」
「わかるよ。僕も最初はそうだった。大丈夫、今すぐ楽にしてあげるよ」

 葛城裕也は指で五芒星を描き、おもむろに呪を唱えた。

「一ノ宮奥義、気吸術 (いん)

 印を結んだあと彼は俺の首筋に手を当てた。
 俺は体から力が抜けていくのを感じた。
 その場に(ひざ)をついて倒れた。

 超人クラブのメンバーがこの場に駆けつけてきた時、二人の炎はうそのように収まっていた。倒れた高森要のそばで片膝をついている少年と傍らに立つ大学生くらいの青年。
 仁はこの二人が自分たちをこの場につれてきた術者だと理解した。

 まるで血流が止まったかのように要の皮膚は青白くなっていた。
 呼吸も荒い。要はがたがた震えて胎児のように丸くなっている。

「寒い……」

 寒い?まだ9月半ばだ。
 暑気が残っていてむしろ暑いくらいだ。

 後からやってきた角田 護は要のそばに膝をつき体を起こそうとして思わず手を離した。
 皮膚が冷たい。要の体は氷の様に冷たくなっていた。
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