第92話 先生のフィアンセ その16 

文字数 646文字

学校の下駄箱に靴を入れ二人仲良く階段をあがり、二階にある一年の教室の方に行くとひときわ喧騒が大きくなった。

一年三組の教室の中で聞いたことのある声が響いている。
「A friend of the heart(心の友よ)」
「君は僕の何を知っているの?」
「ずっと君だけを見ていたんだ」
どっかできいたセリフが二人の女子の口から聞こえてくる。
パシッと手を振り払って一人が教室の出口から飛び出してきた。

「どっ」とわくクラスメートたち。
どうやら、クラス中でアレンと仁の一連の行動を肴にして皆で笑っていたらしい。
「あっ、えーっと誰?」

仁と鉢合わせして、可笑しくて仕方がないと言う風に眼をこすって笑っていた彼女は眼鏡をかけてない仁を認識できずそう言った。
「……佐藤仁だけど」
「えっ、あっ、仁君?」
罰が悪そうに彼女は仁と傍らに立つアレンを見た。
「えっ、アイツ、来たの。すっげー、俺なら恥ずかしくてこれねーよ」
教室から彼女の声を聞きとがめてどやどやと数人が出てくる。

二人が並んで立っているのを見て誰かが言う。
「心の友ちゃん。二人仲良く登校か」
一人に揶揄されて仁は鼻白んで彼に無言の圧力をかけた。
仁の目力は凄い。気圧された方は数歩下がった。
「仁、No problem.(問題ない)気にしないで」
「うん、大丈夫。気にしてないよ。じゃ、また後で」

アレンにそう答えて目の前の数人を無視し大股で教室の中へ入っていく。
所定の位置にカバンを置き教科書を机の中にしまってから、ぐるりと見渡し智花を探すが、彼女の姿はどこにもなかった。
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