第393話 アナザー 護と要 その6

文字数 583文字

 先輩の家を辞した後、俺は家につくなりバスルームでさんざん水ごりをした。
 水の滴る髪をろくに拭かずに下着とTシャツとジーンズを身に着けて、靴を履きそのまま先生のマンションに飛んだ。

『ガンガンガンガン』『ガンガンガン』
 俺はアークシティマンション301号室の玄関のドアを割れんばかりに叩いた。
「はいはい、今あけますよ」
 間延びした先生の声。
 既婚者の菊留先生の家には先生いがい、誰もいなかった。
 奥方と養子のアレンは連れだってデパートへ買い物に行ったらしかった。

「……高森君。……どうしたんですか。頭ずぶ濡れじゃないですか」
 ガチャリとドアを開けた先生は黒ぶち眼鏡ごしに俺を見るなり顏をしかめた。
 先生の腕をガシッと掴んだ。
 水滴が頬を伝ってあごに垂れた。

「先生、俺の力量知りたいってましたよね。あばれたい気分なんです。相手してください」
 俺は三白眼の凶暴極まりない目つきで菊留先生を見上げた。


「……相手するのは構いませんが、高森君。少し話しませんか?
 どうぞ、中に入って下さい」

 先生は俺を家の中に招き入れた。
 リビングの長椅子に座らせると、脱衣所からバスタオルを取って来て俺の頭にかけた。
 髪をふく気になれず、タオルをかぶったまま両手を膝の上に組んで先生に視線を投げた。

「怖い目つきですね。どうしました」
 俺の気持ちを読んでいるくせに、先生はあえてそう尋ねてきた。
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