第343話 アナザー 護の笑えない理由 その27

文字数 720文字

 俺は自分の右手を凝視した。
 能力が発動すると思わなかった。
 驚いたのは俺自身だが、匠に動揺を悟られるわけにいかない。
 平然とした態度で俺は匠を見下ろした。

 壁に叩きつけられて床にずるずる崩れ落ちた姿勢で、匠は眼を見開かせていた。
 自分の身に起こった事が信じられないようだった。

「お前は一体なんだ。超能力者だとでも言うのか」
「だから……さっきから言ってるじゃないですか」
 一呼吸、間を置いた。
「高森要。学生だと」

 匠に抗議したい事は山ほどあったが、奴は聞く耳をもっていない。

 先輩の心をえぐるような言葉の暴力と無抵抗なものに暴力を振るう日常。
 どちらも立派な犯罪だ。
 身内だからって許されるものじゃない。

 そして匠は先輩の目の前でカラスを殺そうとした。
 それは先輩にとって拷問にも等しい行為だ。
 ましてや先輩になついてる動物を殺そうとするなんて。

「あんたはカラスを殺そうとした」
「たかがカラス一羽。何をほざくことがある」
「野生動物保護法では犯罪だ。罰金刑や禁固刑が課せられます」
「お前は馬鹿か。カラスは保護の対象じゃない」

「もし、そうじゃなかったとしても、俺はあんたが許せない」
「許せなかったらどうだと言うんだ」
「謝れ!先輩に謝れよ!」

 匠は意に介した様子もなく立ち上がり先輩に近づいた。
 俺は二度目のビンタが頬に飛ぶのを阻止しようとして、彼の腕をつかんだ。

「よせよ。先輩に何かしたら許さない。俺の力みたでしょう?
 今度は壁に叩きつけられるだけじゃすみませんよ」

 俺は匠の眼を捉え凄んで見せた。
 普段の俺ならそんな事できるはずもなかったが、この時は怒りが勝った。
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