第191話 桜花恋歌 その49

文字数 1,200文字

「角田先輩」
「高森。テスト結果見てきたのか?どうだった?」
「ええ、さすがですね。先輩。不動の一位獲得おめでとうございます」
「……不動か……ありがとう」

先輩はなんの感慨を浮かばなかったようで、特別嬉しそうな顔もしていなかった。
「先輩」
「ああ」
「あの桜の樹、どうでした?」

木霊は『自分の命が尽きるから護を死出の旅路の伴侶としてあの世に連れて行く』と言った。
あの日、狂い咲いた古木は寿命が尽きたということなのだろうか。

(うつつ)へ帰還した次の日、角田先輩は樹木医を招いて樹の状態を確認していた。
「大丈夫。樹を消毒して延命すればしばらくは枯れないって」
「そうですか」

「先輩、俺、思うんですけど」
「ん?」
「人間が自然を壊すけど、元に戻す事ができるのも人間だと思います」
先輩は黙って俺を見つめていた。

「百パーセント元には戻せないかも知れないけど近い状態には出来ると思うんです」
「……。」

「……だから、先輩の立場を生かして、野生動物保護を目的とした、独立機関作ればいいんじゃないかなって俺」

大きく見開かれた奥二重の黒曜石の瞳が光を帯び、きらきらと瞬いた。
口元に笑みが零れて。

先輩はガタンと椅子から立ち上がって俺を抱きしめた。

「すごいや。高森は僕と同じ事を考えてる」
「せっ、先輩」
俺は真っ赤になってうつむいた。
「あっ、ごめん……なんだか嬉しくて」

先輩はそう言って俺から手を離した。

「そのお手伝いが出来るなら、俺、喜んで角田先輩の秘書を務めますよ」
「……ありがとう。高森」
「ただし」コホンと俺は咳払いをした。
「ん?」
「先輩は、自分よりはるかに出来の悪い秘書を雇う事になりますけどね」

俺は手放しで喜ぶ先輩にくぎを刺すのを忘れなかった。
今言っておかないと俺の秘書としてのクオリティに対する要求がどんどん高くなっていくのは眼にみえていたから。

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その後、大學を卒業した角田 護は三年の研修期間を得て角田コンツエルンのホテル部門を引き継ぎ事業に精を出す傍ら、彼の片腕である高森要とともに念願のグリーン財団を設立。
S県のシンジ湖畔を拠点とした野生動植物の保護繁殖、および人と自然が調和した環境の保全につとめた。

数年後、野生生物研究所を開設。
湖の生態展示館をオープンさせ、絶滅危惧種の啓発運動を展開する。
以後、県と市から功績をたたえられ感謝状が贈られることになるのだが、それはまた別の話。

ひとまず、彼の願いは成就される事となったのであった。

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こんにちは、紫雀です。
嘘八百書くなと思われたかもしれませんが、実際にこうゆう企業ってあるんですよね。
このお話は某株式会社様のグリーン財団を参考にしました。
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