第278話 アナザー 二人の高森 その86

文字数 654文字

夜九時。病院の消灯時間ははやい。
当然眠れるハズもない高森要は暗い天井を見て物思いにふけっていた。

彼はまる三日、意識がなかったので食事をとっていなかった。意識が戻って元気そうな要の様
を見たドクターの判断で、受けていた栄養点滴ははずされ夕方には病院食が出された。
病院食はおかゆだったが、食が細くなっていたのであまり箸が進まなかった。
夜、意識が戻ったという連絡を受けて両親と姉が面会に来た。
安静が必要との事で短時間でかえっていった。

暇だ。時間だけは腐るほどある。
思考を巡らせるにはもってこいだ。

要にはなぜ、角田先輩があんなに人当たりの悪い人間になってしまったのかわからない。
いや、あちらの世界の先輩ももともとは人当たりが悪いのかもしれない。

超人クラブに入った時、彼は先生に向かってこう言っていた。
「そんな事を言うと僕はいい子のふりをやめますよ」と

本来。先輩は人好きのするいい子でも立ち回りの上手な人間でもなかったのかもしれない。
でも何らかの理由により、自力でそれを克服して上手に人と接する事ができるようになった。
そのきっかけになったモノはいったいなんだったのだろう。

こちらの先輩にはそのきっかけがなかったのだろうか。
彼は全くと言っていいほど笑わない。

あんなに端麗な人間が笑みを浮かべないとただ怖いだけだ。
本人にその気がなくても、他者に近寄りがたい印象を与えてしまうのは仕方がないと思う。

こちらに来て一度だけ先輩がエミを浮かべた事があった。
だがそれは皮肉に満ちたものだった。
到底、好い印象をあたえるものではなかった。
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