第403話 アナザー 先生の異変 その2

文字数 652文字

「先生……!」

 先生の瞳の色が変化した。
 一旦、赤くなったように見えた双眸は綺麗な(すみれ)色に変わっていた。

 どこかで見た事のある色だ。
 そうだ。あれは病室に見舞いに来た外人のアレンと同じ瞳の色。

 のど元を抑えつけている指先に力が加わってくる。
 苦しくて息ができない。
 遠くから成り行きを見守っていた一ノ谷正人はすぐに異変に気付いた。

「義之!やめろ」

 彼は慌てて制止したが先生は止める気配がない。
 それどころか喉元にかけた指にますます力が加わってくる。

「義之……!」

 呼びかけても先生は反応しなかった。
 慌てて駆け寄ろうとしたが間に合わないと悟って、正人は口元に二本指を立て呪を唱えた。

「菊留義之を拘束する!縛」
 放った呪で先生の行動はぴたりと止まりその場にドオッッと倒れた。
「……ゲホッ、ゴホッ、ゴホッ!!」
 首を絞められていた俺は咳いた。
 重い。先生にのしかかられて身動きが取れない。

 呪を解かれた先生は「しまった」というような顔になった。
 ゆっくり俺の体から離れた。

「すみません。高森君、もうやめましょう……君の実力はよくわかりました。君は十分に強い」
 先生は両手で目を(おお)い俯いて荒い呼吸のままそう言った。

 顏から手を離した先生の瞳は元の茶色に戻っていた。
「……試合終了です。これ以上は私の体力が持ちません」

 身震いするような殺気をひっこめて先生は微笑した。
 スタミナ切れを言い訳したがそんな理由で試合を終わらせたのじゃない事は明白だ。

 バトル開始から10分もたっていない。
 あまりにも早い幕引きだった。
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