第301話 アナザー 二人の高森 その109

文字数 841文字

 義之は裕也の側に瞬間移動(テレポート)し即座に裕也を守るための防護壁(バリアー)をはった。
 言霊に念を載せて張る結界と精神力だけで作る防護壁の違いはその持続力にある。
 一度作ってしまえば長時間持続する結界を作り攻撃だけに専念すればいい正人と、絶えず気を張って防護壁を維持し続ける義之では義之の方が分が悪い。
 短期決戦、気力があるうちにカタをつけなければ負けてしまう可能性が大だ。正人は背後にいる悠斗に結界を張ると攻撃の術式を唱えた。

「我は望む。岩よ。我が手足となれ」
 彼は片手を床と平行に伸ばした。
 足元にあった無数の岩石が手の高さまで浮き上がった。
 そのまま義之に向かって飛ばしてくる。

 岩は義之にぶつかる寸前でピタリととまり、バラバラと地面に落ちた。
 義之は念で側にあった赤い池の上に巨大な水球を出現させると。
 そのまま正人に投げつけた。
 水球は正人を濡らすことなく地面に流れ落ちた。
 両者互角、二人の能力は拮抗している。
 その後も術と念、果ては肉弾戦の攻防は続いたが決着がつかない。
 両者が岩盤に叩きつけられてずるずる地面にくずおれた所で声が響いた。

「もうやめて下さい。お願いします」

 二人、身を起こして声のした方に顏を向けると、言葉を発したのは他ならぬ桂木裕也だった。
 虫の息だったはずの彼は呼吸を整えて二重のぱっちりした目を見開き、大岩の上に立ち上がって澄んだ声で言い放った。

「僕の為に争わないで下さい」
「……裕也君。どういう事かな」
「菊留さん。あと数分で彼との契約が完了するんです」
「契約?」
「はい」
「彼とは?」
 裕也は正人の後ろに立っている悠斗の方を見やった。
「どういう意味だ」
 正人が尋ねた。
 裕也は岩の上から飛び降りると、正人にむかって片膝をつき頭を下げた。

「私は湖北一宮当主、葛城裕也。退魔師として名高い一ノ谷正人先生に目通りがかない恐悦至極」

 葛城一門は東北一帯を守護する陰陽師の名門だ。
 その当主がこんなにも年若い青年であることに驚きを隠せない。
 正人は目を見開いて改めて彼を見た。
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