第283話 アナザー 二人の高森 その91

文字数 579文字

 同時刻 
 菊留義之はすべての雑用をかたずけて、早々と学校を辞し、鬼守の森のほこらのそばにいた。
 煩いほどの蝉しぐれが辺り一面響いている。
 ブナの木が続く森の中。比較的木が植わっていない場所を選んで、義之はおもむろに結界を張るための呪を唱えた。

「界を隔てよ……結!」
 口元にたてた二本の指を一旦下にさげ縦一直線にはね上げた。
 目の前に透明な箱が出現する。
 と次の瞬間「シュン」という音とともに形が崩れ去った。

 義之は暫く考えてから右手の指に、はまった指輪を一つ引き抜いて再度同じ事を試みた。

 結果は同じだ。
 箱は「シュン」という音ともに崩れ去った。
 二つ目の指輪を引き抜き同じ事を試みる。
 無駄だった。
 三度目に作った箱もいともかんたんに崩れ去った。
 一秒も形を保つ事が出来ない。自分の力が無効化されている。
 いっそ、すべて指輪を引き抜いて試みようかと思ったが思いとどまった。

 それはあまりにもリスクが大きい。
 力が無効化出来なくて拡散した波動が近隣の建物を破壊したら大騒ぎになる。
 そう言う事がしたいわけではない。

 所詮、言霊に気を載せるやり方は自分には向かないのだ。
 ましてや、ここは竜穴、自分の気がかき消されるのはやもなしだった。
 義之は持参していたカバンから携帯を取り出し、旧知の友に電話をかけた。
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