第157話 桜花恋歌 その16

文字数 506文字

「ずばり!角田君は桜の木に懸想されてしまったって事ですよ」
「はぁ、……懸想……?」

「はいはい、せんせー、ケソウって何ですか?」

「佐藤君!まったく、君は本当に受験生なんですか。懸想というのはですね。異性に思いをかけること。恋い慕うことっていう意味なんですよ」

先生は受験生らしからぬ質問に嘆きながら丁寧に説明してみせた。

「角田君、君は植物とは話をしますね」
「はい」
「桜花荘の桜とも話をするんですか?」
「……いいえ。あの樹は話しかけても答えてくれません。一方的に僕が話しかけるだけです」
「そうですか……」
「あの樹の下は落ち着くんです。だから色んな話をしてしまいます」

 夢見るような表情で先輩は答えた。

「……そうでしょうねぇ。
 樹齢500年の樹ともなれば、もうパワースポットのようなものですから」

「ついこの間も日本舞踊の着想を得たくて、桜の樹を見に行きました」
先輩は隔週で花柳流の日本舞踊を習っている。

「花柳流の?出し物は何ですか?」
「桜花恋歌。創作舞踊だそうで僕は来年でませんから」
「受験のために一年お休みするんですね」
「そうです」

「どんなお話なんですか?」
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