第168話 桜花恋歌 その27

文字数 782文字

「角田先輩、今日はさぼりでしょう」
 泉に指摘されて先輩の顏は赤くなった。

「気に食わない事があるとすぐ学校を休むくせ、まだ抜けてないんですね」
 先輩は泉から視線をそらしている。

「子供みたいです」
「……子供で結構。僕は君ほど人間が出来てないんだ」
「そんな事言ってないで、先輩は私より上なんだから、もっと大人にならないと」

泉の言った事が図星だったのか。ふてくされたようにツィっと横を向く顏が妙に幼く見える。
先輩はしばらくしてからそろりと、泉の持っている菓子箱に手を伸ばした。
パチン!とはたかれた。

「あげません」
「いずみ、僕にくれるつもりで買ってきたんでしょう?」
「三人で食べるつもりで買ってきました」

泉の言葉はそっけない。お見舞いにきたんだから、たとえ仮病だったとしても、もう少し優しくてもいいんじゃないだろうか。

「先輩、お部屋に入りますよ」
先輩は無言で先に立って部屋に入る。後に続くと部屋の右際にセミダブルのベッド。
左側にシステムデスク、パソコンデスクと書棚が設置してあり壁際に沿ってクローゼットがあった。

俺の部屋のゆうに二倍はありそうだ。はじめて先輩の部屋に入ったので多少の驚きはあった。
いつもなら、通常は「はなれ」に通される。

部屋の真ん中に設置してあるカフェ風の丸いテーブル席について泉は菓子箱を開けた。
インタンホーンで執事に連絡してお茶を持ってくるように頼む。
先輩の部屋でお手伝いさんが入れてくれた緑茶と持参した和菓子をいただきながら泉は言った。

「先輩、先生からの伝言。預かってきたんだけど」
「先生から?なんて?」
「今度の集会、日曜日に桜花荘でやりたいって」
「えっ、」

思いもかけない言葉に先輩は驚きの声を上げて緑茶を噴いた。
今まで、超人クラブの集会を個人の家でやった事は一度もなかった。
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