第303話 アナザー 二人の高森 その111

文字数 520文字

シュンと二人を隔てる結界が消失した。
 すかさず悠斗は兄にかけより首っ玉にかじりついた。

「悠斗、契約したのなら、ちゃんと役目を果たせ」
「……うん」

「悠斗」
「わかってる。お兄ちゃん、わがまま言ってゴメンね。
 アイツに襲われた時、お兄ちゃんはどうしようもなかったってわかってた」
「そうか」

「うん、だから、お兄ちゃんの事うらんでないよ。」
「ありがとう……悠斗」

「二か月間一緒に居られて楽しかった」
「うん」


「ずっと言いたかったんだ」
「なんて」

「あのね」
「うん」

「お兄ちゃん」
「……」

「大好きだよ」
「……悠斗」

 悠斗の姿はひかりの粒となって、きらきらと光ながら
 空気に溶け込むように消えて行った。

 正人はしばらくその場にうずくまっていた。
 立ち上がった正人は裕也に向かって言った。

「裕也君。君は大胆な事をするな。君のやった事がどんなに危険な事か」

 生身の体を幽鬼に差し出せば命を落としかねない。
 生命エネルギーを喰われて契約を結ぶ前に自分が死ぬ可能性もある。

「はい。でも、悠斗君には必要な事だったと思います」
 湖北一宮の当主は静かに答えた。
「そうだな。私もそう思う」
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